小さくて丸いフワフワが好き
わたくしは子どもの頃から、小さくて、丸くて、フワフワしたものが大好きです。
ぱっと思い付くのは小さなぬいぐるみだと思うのですが、究極はヒヨコです。ニワトリのヒナのヒヨコです。
小学四年生のとき、地元の大きなお祭りの露天でヒヨコを買ってもらいました。若い方はご存じないかもしれませんが、昭和の露天ではヒヨコにピンクや緑などの色を付けてカラーヒヨコとして売られていました。わたくしは子供心にも着色されたヒヨコには違和感がありましたし、母にも色付きはすぐに死んでしまうからと言われ、色の付いていないノーマルのヒヨコを一羽、連れ帰りました。
手のひらに納まるそれはそれは可愛らしい、生きた小さくて丸いフワフワに、わたくしはピッチーと名付けました。安直ですね。
きっとわたくし以外の誰もの予想に反し、ピッチーはすくすくと成長しました。
ご飯が好きでお茶漬けのお椀の中にダイブしたり、ふざけてクルクル回っていた弟に体の半分を踏みつぶされたりと、時には命の危機もありましたが。
自分と同じくらいの大きさのカマドウマ(別名便所コオロギ)を食べたときは、驚きと恐怖で野生に返そうかと思いました。
姿がすっかりニワトリになったピッチーを、散歩と称し近所を連れ歩くこともありました。リードを付けたりするわけでもありません。通じているのかも怪しいですが、名前を呼びながらひたすら歩かせるだけです。すれ違う人はギョッとして遠巻きに見るか、興味深げに話しかけてきました。
小学生の間はわたくしの部屋に小屋を置いていましたが、中学生になったとき、さすがに外に小屋を移動しました。鶏糞をご存じの方ならわかると思いますが、物凄く匂うのですよ。
皆さまはニワトリは朝にコケコッコーと鳴くと思っていませんか?意外と関係ないのです。さすがに真夜中には鳴きませんが、少しでも明るくなってくると鳴きますし、昼でも夕方でも鳴きます。結構うるさいです。ご近所迷惑だったと思います。ごめんなさい。
毎朝、食事のために小屋の外に出し、その間に中を掃除するのはわたくしの仕事です。ときには暴れるピッチーの糞だらけの足がわたくしの顔にヒットすることもありました。怒鳴ってやりました。ちっとも響いてなかったですが。
真冬もそうやって外で過ごしているのですが、ピッチーはびくともしません。吹雪のときは小屋の隅にうずくまり耐えています。いつでも生命力に満ち溢れています。
わたくしも中学三年生になり、家から少し遠い高校に通うことが決まりました。さすがに世話し続けることに限界を感じ、田舎で数羽のニワトリを飼っていた伯祖父にピッチーを預けることになりました。わたくしは最後まで世話することが出来なかった罪悪感でいっぱいでしたが、ピッチーは何もわかっていない、いつもと変わらないつぶらな瞳でわたくしを見ていました。
そんなピッチーは最後まで生命力に溢れていたそうで……。伯祖父の家がキツネに狙われ少しずつニワトリたちは襲われていったそうですが、なんとピッチーは最後まで生き残ったそうです。わたくしが散歩させ、雨の日も風の日も雪の日も、狭い小屋の中で耐え忍んで鍛えられたからでしょうか。伯祖父には少し申し訳ない気持ちになりました。
なぜ急にこんなことを思い出したかと申しますとですね。
ネットニュースで知ったのですが、わたくしの住んでいる街、昨日初雪が降ったそうです。
……は?全然気付きませんでしたけれど?
わたくしの住んでいるところでは降っていないということでよろしいのでしょうか。
それはそうとしてですね、北の大地では初雪の前触れとして雪虫という、小さくて白いフワフワが付いたムシが飛ぶのです。わたくしはそれすらまだ見ていませんでした。
はい、雪虫が小さくて丸いフワフワを連想させたのです。決して好きではないですが。
わたくしの今年の雪虫と初雪体験はいつになるのでしょうか。
本格的に寒くなってまいりましたので、皆さまもご自愛くださいませ。