大喜利グセの副作用
わたくし以前、女性の相談事は聞かないと書きました。
ですが、どうしても不可避な場合もありまして。
今回はその中でも特に印象的だったお話でございます。
あれは娘が幼稚園生のとき、地区のスイミングスクールに通わせておりました。
経験がある方はおわかりかと存じますが、スイミングって子が泳いでいる間、親は非常に暇です。なのでママ同士、とにかくおしゃべりして待つわけですね。
同じ幼稚園のママたちは四、五人で、期間は合計一年くらいだったでしょうか。地区のスイミングスクールは三か月毎に抽選があり、当たらないと通えないのです。
わたくしたちは週に一回、二時間ほどの時間を、なんということもないおしゃべりをしながら過ごしていました。
その中に、生まれつき足がちょっと不自由で大人しい女の子のママが居ました。
彼女は明るくおおらかでオシャレな方で、普段は娘さんの足のことをそんなに気にしているふうではありませんでした。成長と共に改善されてゆくであろう症状、とのことでしたので。それでも時折、娘さんの将来に対する不安や、自分が健康に生んであげられなかったことを責めるような会話もありました。
そんな彼女の気持ちを、わたくしなどが理解できるわけがありません。迂闊なことは言えないと、わたくしは口癖の「大丈夫」「なんとかなる」「気にしない」を連発していたように思います。
そうして幼稚園最後のスイミングスクールの日のことです。
彼女が、
「今まで本当にありがとう。色々相談に乗ってもらえて、すごく気持ちが楽になったよ。」
と小さなプレゼントをくれたのです。
へ……?
わたくし、相談に乗った覚えなんて一ミリもないのですが?
いったいどれが相談だったのでしょう?
わたくし、「大丈夫」「なんとかなる」「気にしない」以外、なんて言っていたのでしょう?
心の中では冷や汗ダラダラでしたが、彼女は本当にわたくしに感謝してくれているようでしたので、
「気にしないで!プレゼントなんて申し訳ないわ。でもありがとう。」
的なことを言い、とりあえずプレゼントを頂きました。
ええ、本当に、どれが相談だったのか、未だに謎でございます。
わたくしの座右の銘は『人生は大喜利』。
とりあえず、問われたことには即反応!何か言う!
これがわたくしの日常なのでございます。深く考えてなどいないのです。
ちょっと例を挙げてみましょうか。
痩せると夫からの夜のお誘いが増えて困ると訴える友人には、心の中でノロケやがってと思いながら、
「ずっとムームーでも着てればいいんじゃない?」
とアドバイスして差し上げました。一生体形がわからないようにすれば良いのです。
若い時に美容師に毛量が多すぎて扱いが難しいと嫌味を言われたことを未だに根に持っている六十代の奥様が、あんな人はロクな最期を迎えないと愚痴をこぼされたときには、
「大丈夫です。そんな奴、もう〇んでます。」
と断言して差し上げました。だって事実でしょうから。
ええ、こんなですよ、ずっと。
例は大喜利というより口撃かもしれませんね。オブラートに包むって知ってる?と確認されたこともございますから。
とにかく、
きっと適当なこと、言ってたんだろうなーーー。
そう反省しました。
あまりに申し訳なかったので後日、我が家に招待し、わたくしの出来得る限りのおもてなしをさせていただきましたとも。
学区の関係で娘たちの小学校が離れたこともあり、彼女とはそれきり疎遠になってしまいました。
でも彼女にもらったセンスの良いガーゼタオルは、今も我が家のグラスの下に敷かれております。