ランクAAA(トリプルエー)
「やっぱり護衛は最低限ね」
金髪碧眼の美人ルキアは、サプレッサー付きの拳銃で護衛を無力化しようと照準をあわせる。
パシッ、パシッ、というチープな音が響き、ボディーガードの脚と首元が撃ち抜かれた。
(まあ、忌避感はあんまり感じないんだけど……)
仏になったものを踏み越えるかのごとく、ふたりはブラッドハウンズのボスを出待ちする。
「さて、あとはボスを始末するだけね」
と、ここでカルエに入り込んだ少年は原作知識を思い出す。
ブラッドハウンズという組織のボスに君臨する女帝を思い浮かべ、カルエは本能的に肩をすくめた。
「どうしたのよ」
「いや……ルキアは知らないかもだけど、ブラッドハウンズのドンは女なんだよ」
「え? でも、あの猫背は情婦がいるって」
「情婦は情婦でも、夫のほうの情夫さ」
「良くそんなこと知ってるわね……」
実際、ブラッドハウンズほどの組織になると情報統制がしっかり働いている。カルエやルキアのようなチンピラ的存在では、その頂点の性別すら知り得ない。
ただ、カルエには原作知識がある。彼女の身長やバストサイズ、能力までちゃんと頭に入っているのだ。
「名前はマルガレーテ。オレンジ色の髪の毛が特徴的で、その能力とランクは──」
瞬間、カルエは伏せた。それに一瞬戸惑ったルキアも、シックス・センスで状況を予知し、身体を伏せさせた。
その頃には、火炎放射器のように炎が撒き散らせていた。リムジンは燃え盛り、やがて轟音とともに爆発する。
その火の主は、薄暗いウィング・シティの夜中でも炎の明るさで顔が見えるほどだった。
「おいおい、なんで運転手どもが死んでるんだよ?」
マルガレーテだ。原作通りの凶悪な力を持っている。彼女はどの程度の身体改造・ギア装着に耐えられるかの指標となるランクで『AAA』を叩き出している、この街の最高位のひとりである。
「しかもリムジン爆散しちゃったしさ……、あーあ。ヒトが愛を求めたらこれだよ。なんだろうなぁ。あたしの人生ってさ」
そんな独り言に、カルエとルキアは気配を消すために決して返答できない。
だが、いくら暗闇といえども、ここまで火が広がってしまうと姿も露わになってしまう。
カルエはマルガレーテと目線が合ったことを確認し、即座に立ち上がる。そして改造済みの義足の力で彼女との間合いを狭めた。
「おっと、犯人発見」
(やっぱり動体視力を良くするギアも装着してるな……。ただ、こっちも能力を無効化できる。景気づけにはちょうど良いさ……!!)
カルエは次々と襲いかかる炎の弾丸、触れれば一瞬で黒焦げになる殺意の弾丸を左手で触れ、消し去っていく。
マルガレーテは、「へえ……」とニヒルな笑みを見せた。彼女は言う。
「オルタナってチンピラから奪った能力か!! それに身体改造もしてあると!! 面白いじゃん!!」
カルエはマルガレーテを殴る、いや、義手になっている右手で撲殺するために、拳を握りしめた。




