”南無阿弥陀仏”
一方、警察署内。
「ジャッジマンがやられた、だァ!?」
アラビカは怒り心頭だった。最近MWF──最重要指名手配犯に指定された男を潰すべく、最善の手を打ったつもりが、それらがすべて失敗に終わったからだ。
「しょ、署長……」
署員は震えるほかない。アラビカが本気で怒れば、彼らはたちまち災害に飲み込まれるからだ。伏して命乞いするしかない。そうしないと、災難が訪れてしまう。
「あのガキィ!! このおれをどこまでもコケにしやがる!! もう良い! おれが直接アイツを潰すまでだ!!」
署長用の机を軽々放り投げたアラビカは、指をパキパキ鳴らす。
その刹那、
第3警察署は停電に襲われた。
「停電? ……そういうことか。わざわざ鴨が葱を背負ってやってきたみてェだな」
先ほどまで怒りに支配されていたアラビカは、ここで冷静になる。
そして、
「署長!! サーマルビジョンをつけた、カルエ・キャベンディッシュとその仲間だと思われる者が、次々とこちらへ向かってきています!!」
部下からの伝達を訊き、彼は喜々とした表情で、外も暗く中も暗いというのに、怖気づくこともない。それを見た部下たちは、ある種の安堵感を覚える。
「どうせ非常用の電源も壊されてるんだろ? よろしい。カルエ・キャベンディッシュはおれが請け負う」
アラビカはつかつかと、暗闇の中を開いていくかのごとくどこかへ向かっていく。
*
「南無阿弥陀仏、って感じだね」
「貴方無神論者でしょ」
「彼らの中には仏教の信者もいるはずさ」
カルエとルキアは、サーマルビジョンをつけ、最小弾数で敵の城を攻略していく。軽口を叩きながら、ゲームでもするかのごとく。
「さて、あらかた片付いたかな」
「あとは、署長室に向かうだけね──」
刹那、ルキアの意思が危険を汲み取った。
「カルエ、やばいのが来る!!」
「よし。ルキア、もう下がってて。これ以上深入りすると、命落とすよ」
「ええ……」
死体の山で足がぬかる中、ルキアは出口へ向かおうとした。
そのとき、
ルキアの胴体を炎の龍が貫こうとした。が、カルエが寸のところでそれに触れてかき消す。
「な、なにが……」
カルエは拳銃をしまい、目の前の敵に対峙する。
「おお、はじめましてだな。カルエ・キャベンディッシュ」
さえない見た目と薄毛。身長もカルエとさほど変わらない──180センチ程度で、この街では巨漢の部類には入らない。
そんな第3警察署署長アラビカは、火で燃え盛る一本道にて、その表情を露わにする。
「ああ、はじめまして。アラビカ署長」
「オマエがトラマーとジャッジマンをやったのか。信じがたいな。だが世の中に必定はねェ。まあ、悪の進撃もここで終いだよ」
「はッ、汚職警官がなに抜かしてるんだ? アンタはもうこの街には不必要なんだよ。だから、おれが引導を渡しに来たのさ」
「引導を渡す、か……。そうだな」
瞬間、大暴風が吹き荒れた。ペキペキッ!! とコンクリートの壁が剥がれ落ちていく。危険なエネルギーが、カルエの喉元まで迫った。
「そっくりそのまま返してやるよ。オマエら無法者はこの街に不必要だ。だから、おれが引導を渡してやる!!」
轟音とともに、カルエはまともに攻撃をくらった。




