アプローチ変更
「すごいな……、これがカリナの力なのか」
身体から力が抜けるほどだった。これが、カリナ。これが、本来主人公勢に加わっていたはずの存在。
「どうしたの~?」
されども、カリナは邪気のない微笑みを浮かべる。この攻撃だけで何十人死んだのかなんて、彼女の前では意味をなさない。
カルエはやや震える身体を隠すかのごとく、マルガレーテへ電話をかける。
「もしもし、そっちは全滅したの?」
『ああ……、アラビカは本気でオマエを捕まえる予定だったらしい。相当な手慣れと人数が配置されてた。ほとんど捕まったか、死んじまったよ』
「すまないね」
『謝られても困る。で? カリナってガキは無事なのか?』
「うん。いましがた、追手の警察車両を全部ぶっ壊した」
『なるほど。これで、子分どもの犠牲もすこしばかり報われる』
「……、マルガレーテ」
『なんだ?』
「サツどもがここまで兵隊を配置したんだ。アイツらはもう弱体化してると思わないか?」
『そりゃつまり……』
「叩くなら、いましかない」
計画はあった。だが、ここまで動き回ると、もう前倒ししても問題ないだろう。
それでも、一世一代の大博打であることには変わりない。マルガレーテほどの強者でも、あの男だけには逆らってはならないと考えているからだ。
手を若干震わせながら、カルエは宣言する。
「アラビカを叩こう。もう、刑務所を襲うなんて悠長なこと言ってる場合じゃない。アイツの兵隊がいなくなったいまが、最後で最大のチャンスだ」
電話越しのマルガレーテは、『ふん』と鼻で笑う。そして続けた。
『よろしい。こっちもだいぶ弱まっちまったが、まだあたしとジーターがいる。そっちにはルキアとカリナがいる。ここからが本陣だ』
「よし……!!」
カルエは電話を切り、あくびするカリナに向き直す。
「カリナ、おまわりさんは嫌い?」
「嫌いだよ! だってあたいのことを閉じ込めたんだもん!」
「じゃあ、おまわりさんを叩き潰せるとしたら?」
「兄ちゃんが望むなら、それくらいやるよ!」ニコッと笑った。
「良い子だ」カルエも邪気ない笑みを見せ、「じゃあ、これから言う作戦を覚えてね。良い? まず、警察署の電子機器をすべて破壊するんだ。カリナの能力だったらそれができるはずだよね?」
「当たり前さ!」
「その状態を維持するのが、カリナの仕事だよ。カリナがうまくやらないと、おまわりさんが顔真っ赤にしてやってきちゃうからね」
「おお! めちゃ疲れそう! でも、あたい頑張る!」
子どもは御しやすい。カリナはカルエのことを兄だと思いこんでいるから、なおさらだ。それに、この襲撃を成功させるには、カリナの能力は確実に必要だ。
カリナのためにかがんでいたカルエは、ルキアへも電話をかけ始める。
『あら、デートは楽しかったかしら?』
嫌味を気にすることもなく、
「ルキア、作戦を大幅に前倒しすることにした。警察署を襲って、アラビカを無理やり屈服させるアプローチで行く。こっちに合流できるか?」




