無効化の本質
「効いたかよ、クソ野郎」
腕の肉が切り落とされ、ジャッジマンは右腕の部分から血しぶきを吹き散らす。
「てめ、てめェ!! なにしやがった!?」
「教える義理はないだろ。手の内を明かすほど馬鹿じゃないんだよ、こっちは」
原作のカルエなら、このまま一から十まで丁寧に説明していたかもしれない。だが、いまのカルエには彼の大ファンが入り込んでいる。だったら、説明なんてするわけがない。そこから公式を暴かれたら、カルエは一気に追い込まれるのだから。
(やっぱり無効化の本質はルールを捻じ曲げることだったか……。どっかで見た二次創作とファンブックに感謝だな)
とはいえ、なにも分からず腕を切り落とせたわけではない。カルエには確固たる自信があった。オルタナというラスボス候補にも数えられる存在から奪った能力は、なにも無効化のみが売りというわけでもない。
「さて、もうおしまいだ」
カルエは息も絶え絶えなジャッジマンに、左手のひらを向ける。
エネルギーがチャージされ、カルエはなおも自身を睨んでくるジャッジマンの頭に照準を合わせる。
それだけで、決着はついていた。
「はあ、はあ……」
カルエは頭が刎ねられたジャッジマンを一瞥し、やがてカリナのもとへ向かっていった。
「カリナ、無事か?」
まだ解析と解除は終了していないようだった。カルエは運転席に座り、マフラーを取って一息つく。
「消耗が激しいな……。ありえないルールをねじ込んで、相手の腕を溶かすのも難儀だ」
といっても、この方法以外にジャッジマンへ勝つ方法はなかった。最善手を打っただけだ、と、カルエは息切れを起こしつつ、椅子を若干倒す。
そんなとき、
サイレン音が響いた。
「嘘だろ……。ブラッドハウンズが負けた?」
パトカーは視認できる限り10台超え。これからもっと増えていくかもしれない。
カルエは慌ててアクセルを踏むも、最前のジャミングが効いている所為で、車はうんともすんとも言わない。
「やばいな……。対峙するか? いや、体力切れで殺人狂に成り下がるのがオチだな」
カルエは現状ランクB。正気度的な意味合いで、さらなる連戦には耐えきれない可能性が高い。されどバックミラーには、考えたくもないパトカーの大群が更に増えていく。
「クソ、無抵抗で捕まるのもゴメンだ」
もう動かすのがやっとな身体を動かし、カルエはトランクに積まれていたライトマシンガン『XM350』を取り出す。ただの悪あがきだが、やらないで後悔するくらいならやって終わらせようという腹積もりだ。
「──んー、兄ちゃん。なんで、あたいこんなのに絡まれてるの?」
絶体絶命の危機。そのときに、カルエはまだツキがあることを知る。
「カリナ。後ろから悪いヤツらが来てる。兄ちゃんを助けてくれないか?」
「良いよ~」
気の抜けた返事とともに、カリナはデバイスを振り払い、外へ立つ。
そして、追手のパトカーという“無機物”が続々と破壊されていく。ある車は爆発し、ある車は宙に浮き、やがて追手はすべて壊滅するのだった。




