ランクAA(ダブルエー)ジャッジマン
「よし」
カルエ・キャベンディッシュは顔をパンパン叩き、気合いを入れ直す。そして改造されていない左手でハンドルを握り、逃走を始めた。
銃声音が響く中、カルエは一般道路に滑り込む。明らかなスピード違反をしている日本車は、しかし冷静な運転で着々と現場から離れていく。
「誰も追ってこないな。ラッキー」
カルエは一息つき、遊園地から数キロメートル離れた時点でスピードを緩める。あとは一般車に紛れ込み、隠れ家へ帰るだけだ。その頃には、カリナへの施術も終わっているだろう。
そんなときだった。カルエの日本車に警告音が響いたのは。
「エラー? いったいなにが──」
特別改造されてある日本車は、タコメーターの部分に危険を報せる機能がついている。
カルエの胸に嫌な予感がよぎる。彼はカーナビのディスプレイを凝視した。
すると、なにやらGPSシステムにジャミングがかかっていることに気がついた。
「GPSが? ……、まずいな」
カルエはここでふたつの事態を知る。
ひとつ、カルエの脳内に隠れ家への地図は入っていない。カルエに転生してから、まだ1週間も経っていない彼の頭に、ウィング・シティ全域の地図は入っていないのだ。
もうひとつ。これは、隠れ家への道がいまひとつ分かっていないことなんて吹き飛ばすほど、厄介な問題が近づいていることだった。
(警察機関にはギアや電子機器をジャミングできる者がいる。ソイツはトラマーと違って、最後までアラビカに忠誠を誓ってる。ヤツが現れたのなら、合点が合っちゃうんだよな……)
原作通りに進むのなら、主人公側と闘うことになる男。主人公勢も苦戦を強いられる難敵。
やがて、カルエは車を一旦停める。いや、正確には恐ろしいジャミングによって、半強制的に止められてしまう。
一方、カリナに接続されたデバイスは停止していなかった。相当なブロッキングを行っているようだ。ただ、これもいつまで保つか分からない。
そんな中、
車の前面に、誰かが飛び乗ってきた。バコンッ!! という音とともに、前面ガラスが蹴り破られる。
「うお!!」
カルエは咄嗟に拳銃でその足を撃とうとする。が、ハンドガンを持った手を蹴られ、それは彼方へ飛んでいった。
「よう」
カルエはドアを無理やり開け、彼と対峙する。
「カルエ・キャベンディッシュだな? オマエ、存在という罪で死刑だ」
ジャッジマン。ランクはAA。トラマーよりも格上だ。カルエの額に嫌な汗が伝う。
「……、存在は罪にはならないはずだけど? 合衆国法典では」
「オマエ、無法者のくせに法典が適応されると思ってるのか?」
重たい口調で、黒色の髪の毛とひげをたくわえるジャッジマンは、カルエのギアと身体改造を引き剥がすべく、蒼い閃光を放つ。
が、ここでカルエも無効化を発動させる。銀色の光とともに。その閃光たちは相殺され、カルエは右手をバキバキと鳴らす。
「されようがされまいが、アンタには意味がなさそうだ」
ジャッジマンはニヤリと嗤う。




