無機物を自在に操作する力
原作のカルエはよく仏頂面だった。なので、案外カリナの疑念とルキアの返事は的を射ているのかもしれない。
「いつもこんな顔してるわけじゃないさ。でも、いまは考えなきゃいけないことが多くてさ」
「たとえば?」
「壁の修復とかね」
「なーんだ。そんなことか~」
カリナは壁だった瓦礫に触れた。そして、オーロラみたいな現象があらわになり、やがて時間を巻き戻したかのごとく、壁に空いた穴に瓦礫が埋め込まれていく。
「兄ちゃんの能力もすげえけど、あたいも負けちゃいないよ!」
壁が完全に修復された頃、カリナは得意げな表情で腰に手を当てる。
そんなカリナの頭を、カルエは撫でた。
「すごいね。さすが、おれの妹だ」
「でっしょ! あたいの能力は、『無機物を再生したり壊したりする』んだもん!」
そんな光景を目の当たりにし、ルキアは口を開けるだけだった。
「無機物を再生? どうかしてるわね……。トラマーの外道はなにを考えてたのかしら」
これだけの戦力を、トラマーはあっさりカルエたちに譲渡した。いくら彼の目的がアラビカ打倒であったとはいえ、悪用される危険性に気が付けないほど愚かでないはずだ。
「さあ。死人と通信できるわけじゃないから、分からないよ」
「まあ。そうね」
結局、死人との連絡手段なんてない。それなら、口なしということでうまく収まる。
「さて、データは揃った。これで、誰と監獄ロックすれば良いのか分かる」
ついでに、トラマーはアラビカの汚職の証拠を置いていった。それを分析すれば、カルエたちが次に行うべきことも自ずと見えてくる。
「そうね。データ分析なら私に任せて」
「ありがとう」
「あたいはなにすれば良いの?」
「そうだな……、現状、カリナに任せたいことがないんだよな」
「それじゃつまんないよ! ルキアちゃんもカルエもなにかするんでしょ? だったら、あたいもなんかしたい!」
「だったら、遊園地でも行く?」
「行く!!」
「は?」ルキアが語気を強める。
「なにも、遊びだけに行くわけじゃないさ」
「いや、最重要指名手配犯──MWFの貴方がまともに外出できるわけないでしょ?」
「サングラスでもかけてれば大丈夫でしょ。なんならマフラーも巻いてこうかな」
「天然で言ってるのかしら──」
ここで、ルキアはシックス・センスを使ったテレパスの存在を思い出す。シックス・センスは直感が強くなるだけでなく、テレパス的に脳内を使って会話もできるのである。
(なに考えてるのよ)
(カリナを遠ざける必要があるだろ? データ解析中に、洗脳が解かれたら面倒なんて騒ぎじゃない)
(本気で遊園地に行くつもりなの?)
(もちろん。子どもは遊びにも本気でしょ? 疲れ切って、帰りの車の中じゃ寝てるはずさ。そこで、マルガレーテやジーターに頼んで、カリナの脳内に埋め込まれてるであろう、なにかしらの洗脳を調べてもらう)
カリナは遊びへ行くために、すでに玄関まで向かっていた。




