立ち向かう相手
「そうだ、アンタの負けだよ。マルガレーテさん」
「なら、どうするんだ? ここであたしを殺すか?」
「この後に及んで援軍が来るとでも?」
「来るよ」
マルガレーテは不遜な態度で答えた。なにか隠し玉があるかのような言い草だ。カルエとルキアは怪訝な表情を浮かべる。
「いや、正確に言えば、あたしの組織がオマエらを許さんって意味かな。情報の足は早いぞ? ブラッドハウンズのドンを弾いた情報なんて、すぐに広がる。一週間後には地獄で再開だ」
ブラッドハウンズの結束は堅い。それは、原作でも嫌というほど書かれている。暴力主義を貫き通すためには、舐められたら終わりだ。ましてやボスがぽっと出にやられたとなれば、なおさらである。
「さあ、どうする? もう10分くらい経ったな。そろそろ、帰ってこないことに子分どもが気づくだろうさ。あたしの部下は強えぞ? それでもあたしを弾くか?」
カルエは横目でルキアの手が震えているのを見る。これでは、まっすぐ弾丸を飛ばせるのかも怪しい。恐怖は判断力を鈍らせる。そんなこと、百も承知だ。
なら、原作知識で勝ち抜くしかない。
「なあ、マルガレーテさん。アンタは本気であの男を愛してるんだろ?」
「あぁ?」
「アンタの言ってることはハッタリでもなんでもない。もしここでアンタを殺せば、あの少年がブラッドハウンズに通報するって魂胆なんだろうな」
「……、だったらなんだ?」
「部屋番号3005、にアンタの男は暮らしてる。髪色は赤色で、ビビリな性格だよな?」
「……てめえ、アイツも殺すつもりか!?」
「おれはチンピラだぞ? 未成年だからって容赦すると思うか?」
マルガレーテの情婦、基情夫は、18歳の少年だ。原作では存在が明かされているだけだが、見た目と年齢はファンブックに書かれていたりする。また、部屋番号はマルガレーテの隠れ家なので、原作でも度々記されていた。
「ただまあ、アンタの言うことも一理ある。そりゃあ、ブラッドハウンズはおれらを消そうとするさ。だからここは、互いに利のある提案をしたい」
すっかり炎が消え去った現場で、カルエは告げる。
「同盟を結ぼう」
ほんのすこし、カルエの身体が本能的にびくりと震えた。しかし、それはマルガレーテには察知されなかった。
しばし沈黙が続き、灰になったリムジンを掴み、無理やり立ち上がったマルガレーテは、やがてゲラゲラ笑い始めた。
「おもしれえなぁ、オマエ。このあたしとブラッドハウンズと同盟? こりゃあ、一本取られたぜ」
途端にルキアが拳銃を向け直すが、まったく気にする様子もなく、マルガレーテは言う。
「上等じゃねえか。どこの誰を潰すのか知らねえけど、付き合ってやろうじゃねえかよ」
「潰す相手は決まってる」
「へえ、誰だ?」
カルエ・キャベンディッシュが成り上がる方法を考えたとき、確実に邪魔になる者がいる。
それは、
「ウィング・シティ第3警察署の署長、アラビカだ」
本来ならば、敗北しているはずの相手。原作通りならば、主人公サイドに倒される悪徳警官。
カルエに入り込んだ少年は、そんな署長アラビカに立ち向かうこととなる。




