表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/40

第九話『今日もまた誰かオトメのピンチ』


 チリン、という鈴の音に、私は目を覚ました。

 意識が覚醒するのと同時に、黄ばんだ羊皮紙を模したウインドウが、網膜に現れる。


『新たなスキルを獲得しました』


 スキル

 道具作成New!

 アイテム作成New!

 ポーション作成New!

 クラフターNew!


 なるほど__どーやらある程度の回数その行動を繰り返すか、成功させると、スキルとして獲得できるらしい。


 と言うか__どこだろう、ココ……?

 真っ暗だ。

 それに、いつの間に眠ってしまったのだろうか?


 __はて? 確か、何かあったよーな……?


「ううっ……」


 起きあがろうとして__動けなかった。


「んんっ……?」


 両手足が動かない。


「ふがっ⁉︎ ほへっ⁉︎」


 口も塞がれている。


「へへへ……よーやくお目覚めかい、お嬢ちゃん?」


 目の前から、そんな男のがらがらと喉に絡むような声が聞こえた。


はっ(だっ)はへ(だれ)……⁉︎」


「おおっと、大人しくしときな? なぁに、イイ子にしときゃ、悪いようにはしないから、よ」


 思い出した__後ろから突然、煙幕弾を放たれたんだ……。

 恐らく、睡眠薬でも混ざっていたのだろう。

 煙を吸い込んだ私は、そのまま意識を失ったらしい。


「……ひーほ(ヒート)は?」


「あん?」


ひーほ(ヒート)! ほはへ(トカゲ)!」


「ああ、お嬢ちゃんのペットなら__」


 ごそり、と、男が動く気配がした。


「ほれ、このとおりぐっすりさ」


 何か固い物を床に置く音が、目の前からした。たぶん、(おり)だ。

 どーやら、また檻に入れられてしまったらしい。


ひーほ(ヒート)? ひーほ(ヒート)っ! おひへ(おきて)っ!」


『……うっ……』


 ヒートは小さく呻き声をあげる。


『おや……これは大変だ』


 ちっとも大変そうには思えないくらい、のんびりとした口調でヒートは呟いた。

 同時に、ヒートは私と感覚を共有してくれた。

 彼の視界を借りることで、私たちがいま何処(どこ)にいて、なにが起きているのか、よーやく理解できた。


 __松明(たいまつ)(いた)る所に()かれた、地下墓地だった。

 目の前に、長い金髪を垂らした、細い手足に細い(くび)の、頭身の低い美少女__つまり私が、縄で拘束されている。

 目と口を布で塞がれ、両手は後ろ手に、両足も一纏めに揃えて縛られている。


「な、なあ……コイツ、ほんっとーに人間なんだろーなぁ?」


 私を覗き込んでいた男に、別の男が声をかける。


「ああん?」


 怪訝(けげん)そうにそちらを向く男に合わせてヒートが視線を移すと、そこには四人くらいの男性が、焚き火を囲むようにして座っていた。

 どの男たちも短髪にヒゲ面で、筋骨逞(きんこつたく)しい。

 ゴロツキ、チンピラ、アウトサイダー……そんな単語が、頭をよぎった。


「だっ、だってよお……どーにもソイツ、人間離れしてるって言うか……まるで人形みてぇじゃねえか」


 その言葉に、ふん、と私の目の前にいる男は鼻を鳴らし、


「なら()()()()()()()


 言いながら、私の肩を掴んだ。


「……へ?」


 確かめるって、なにを__


 突然の浮遊感のあと、私は焚き火の前へ、仰向(あおむ)けに叩きつけられた。


「は……う!」


 背中を打ち、呼吸が止まる。


「た、確かめるってお前、()()()()()()?」


「ンなモン決まってらあ……このお嬢ちゃんの服ひん剥いて、人間かどーか確かめんのさ。()()をな。()かなかったら人形、()いたら人間って感じで勘定すりゃ文句ねぇだろ?」


 ゾッと、血の気が引いて鳥肌が立った。


「おい、ソイツ貴族の娘かもしんないんだろ? 身代金たんまり貰うんじゃなかったのか?」


「そーだよ、どーすんだよ身代金は!」


「ヤるんだったら、せめて家の名前を聞いてからにしとけ」


 彼らのやり取りに、なんとなく状況が見えてきた。

 つまり私はどこかの貴族の娘に間違えられて__

 今まさに貞操(ていそう)の危機に(ひん)していて__

 そして誰も止めてくれないと__


「やっ……ひーほ(ヒート)おっ! はふへへ(たすけて)ぇーっ!」


 あらん限り、私は叫んだ。目隠し越しにちょっと目尻が涙で(にじ)んだのは、ナイショだ。


(わか)った』


 応えた声と、ボンッ、と何かが()ぜるお腹に響く音が、同時に聞こえた。


「なんだっ⁉︎」


(おり)が……檻がひとりでに燃えやがった!」


「ひっ……ひぃぃぃぃ⁉︎ や、やっぱりコイツ、人なんかじゃ……!」


「おいおい! このトカゲもしかして魔物(モンスター)かっ⁉︎」


「おい! いいから早く消せ!」


 男達が口々にわめくその間を縫って、檻を壊したヒートは私の元へと一瞬で現れた。


『ちょっと熱いよ』


 言いながら、私を拘束している縄を燃やす。

 解放された私は、むしり取るように目と口を覆う布を外し、立ち上がる。

 このまま逃げれば良かったのだが__なんだかむくむくと、怒りが込み上げてきた。


 __おのれ()()()……!


 どん、と床を蹴り、私は跳躍(ちょうやく)した。


「あっ! てめっ……」


 私が着地したのは、最初に話しかけてきた男の目の前だった。


「……歯ぁ喰いしばれ……!」


 腰を落とし、右の拳を近くにいた男の腹に向かって突き込む。


「“海龍破”ぁ______っ‼︎」


 叫びに続いて、私の右腕が、魔力の閃光に包まれた。

 炸裂するかのように噴き出した水圧が、物凄い勢いで一直線に伸びる。

 叫び声を上げる暇なく、男は壁へと叩きつけられた。


「ひあぁ……っ!」


 私は軽く放心状態の男たちへ、一気に間合いを詰める。

 まず一人目は、フィンガージャブと呼ばれる三本貫手(ぬきて)で喉元を突く。


「うぐっ⁉︎」


 喉を押さえながら前屈みになったところへ、サイドキックを叩き込む。

 二人目は顔面に向けて飛び膝蹴りを放ち、三人目は関節蹴りをしたのち押し蹴りで吹き飛ばした。


「ふんっ!」


 唇を引き結び、繰り出した肘打ちが、(えぐ)るように四人目に炸裂する。


『容赦ないね』


 いつの間にか私の肩に留まったヒートの言葉に、


年端(としは)も行かないホムンクルスを怖がらせた罰だよ」


 腰に手を当てて、私は鼻を鳴らした__


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ひゃああああ(;゜Д゜)助かった~(~_~;) カノンちゃん酷いことされなくて良かった!!
[良い点] テンポが良くてとても良かったです! [一言] 魔物の襲来、どうやって入ってきたのか…… どうなるのか楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ