第八話『空は青く澄み渡り』
ちなみにサブタイトルは全部色んな曲の歌詞の一部です。
マウンテンバイクの車輪が、ごろごろと石畳の通りに音を立てる。
賑やかな目抜き通りは、馬車が余裕ですれ違えるくらいには広い。
その両側に密集した、白壁にオレンジ色の屋根の建物には、看板が下がっている。
酒樽や靴や衣服、盾と剣や魚や果物の形をした看板もある。
__商店街だ。
通りの先は開けており、街を十字に横切る大通りが交差していて、その交差点が大きな広場になっている。
その広場の中央に、大きなベルが付いた時計塔が、街を見渡すようにそびえ建っていた。
暖かい陽射しが、石畳と建物の白い壁とに反射して、眩しいほどに明るい。
そこを住人たちに混じって、剣と鎧で武装した人や、魔法使いや僧侶のような格好をした人たちが行き交っている。
「……おぉ〜……!」
__異世界だ……! 剣と魔法のファンタジーな世界だ!
ひとり感動していると、
『さて。無事に街に着いたね』
するり、とローブから顔を出したヒートは声をかける。
「あ……うん」
ヒートは滝をのぼる鯉みたいな動きで、私の肩へと移動する。
『どうする?』
問われると、ちょうどタイミングよく、ぐぅ、とお腹が鳴った。
「えっと……お腹空いたね」
『そうだね。ボクもお腹がぺこぺこだ。じゃあ取り敢えず、なにか食べようか』
でもその前に、と、ヒートは続ける。
『ニンゲンは……まあ、カノンはホムンクルスだけど。
兎に角、こういった場所では、何かをするのに対価として【お金】を使ったり得たりするんだろう?』
「うん、そう」
言われて、そー言えば一文無しだったことに気づく。
『じゃあ、ボクの抜け殻の余りや、カバンの中にある素材を幾つか、道具屋かマジックアイテムショップにでも売ってお金にしよう』
__あ、だったら……。
「そのまま売らずに、どーせなら加工しない? 私、錬金術の練習もちょっとしたい」
『ああ、それは良い考えだね』
と、言うわけで__
さっそく、私達は人通りの少ない、薄暗い路地裏へと移動した。
さすがに往来の多い街のど真ん中で、堂々と錬金術を行うほどの度胸は持ち合わせていない。
路地裏は大通りほどでないにしろ、何人かが肩を組んで歩いても道が塞がらない程度には広かった。
『明るいうちに終わらせよう』
「うん」
頷いた私は、なんとなく上を見上げた。
二つの建物に挟まれたことによって形作られた長方形の青空は、建物と建物を繋ぐかのように無数に伸ばしたロープに干してある洗濯物で、少し塞がれている。
__うん、まあ……コレだけ洗濯物で埋まっていたら、下で何かしてたとしても気づかれないし、見られないだろう。
次に、私は『錬金術』に使用する『道具』を広げるために、目線を足元へと移した。
石畳はあちこちでヒビ割れ、欠けたり抜けたりしているところもあるし、そんな隙間や穴から雑草も伸びている。
「……ふむ……?」
__どーやら街の裏側は、表ほど舗装していないらしい。そこまで人の手が回らないのか、予算がないのか……。
取り敢えずなるべく平らな場所に、カバンから錬金術の実験器具を並べていく。
……別に道具自体は、変わった物は使わない。ビーカーとかフラスコとか試験管といった、化学の実験でよく見かけて使う道具だ。
あとは、まあ、昔の薬作りに使用された薬研って言う乾燥させた薬草や木の皮を粉末にする道具や、片手盤っていう丸い台の中心棒に鼻のついた包丁を差し込んだ生薬を刻む道具などを、次々と取り出しては並べていく。
最後に薬草や鉱石を並べて、準備完了だ。
「さて__」
楽しい楽しい実験をはじめようか。
__私はその時、錬金術に夢中になっていて気づかなかった。
実はこの場所は、地下の下水施設に繋がっていることに。
そして、背後に石畳に混じって石造りの円形の蓋があって、そこから誰かがこちらをこっそりと覗いていたことに__
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