第七話『ミンナ親切聞イテマス』
私が街道で話しかけたのは、農夫の兄弟だった。
彼らは幌馬車に仲間の農夫と、採れた野菜を積んで街まで帰る途中だという。
麻の服に木の皮で作ったオーバーオールを着た、いかにも『村人AとB』と言った見た目の、ヒゲ面で大きな鼻をしたおじさん達だった。
__水玉模様のキノコ食べてそう。
何故か、私はそう思った。
兎も角、そのおじさん達に道を聞いたところ、この先に中くらいの大きさの街があることを教えてくれた。
ちなみに幌つきの荷台を引いているのは、二本足で立つ恐竜みたいな謎の生き物だった。
__やはり何かが記憶を掠めた。
もう無視しろと、本能が命じる。
『れっつぁごぉ〜!』
そう言って手を振るおじさん達に別れを告げて、私は街のある方向へと自転車を走らせた。
街に近づくにつれて、横に並んだ軽トラ二台分の広さの街道には、すれ違う馬車や徒歩商人たちの数が多くなって来ていた。
__すれ違うたび、彼らから物珍しげな視線を投げかけられたりしたが。
兎も角、自転車を走らせること数分。
私は、石造りのアーチの前まで辿り着くことができた。
アーチには門兵が二人、斧槍を立てて構えており、その先の吊り橋を渡った先にも、同じような格好をした門兵が、やはり二人して斧槍を立てて構えている。
「……おっきい……」
『うん。立派な建物だ』
自転車から降りてアーチ越しに街を眺めながら、私とヒートは呟いた。
そこはちょっとやそっとじゃ壊れなさそうな外壁に囲まれた、石造りの街だった。
「な、なんだその乗り物はッ⁉︎」
「止まれ!」
アーチをくぐろうとした私は、門兵たちに止められる。
__ああ、やっぱり自転車って珍しいんだなあ……。
と、どこか他人事のように感じながら、
「ポッポーウ! ワタシ外人サーンダカラ、アンタ達ノ言葉ワカラナーイネェー」
そう言って、カタコトですっとぼけてみる。
「なにぃ……?」
「コレ、ワターシノ故郷ノ乗リ物ヨー。アンタ達知ラナーイカー?」
手を広げて、やれやれ、と言った感じに肩をすくめる。
「た、確かにきみはこの国では珍しい見た目をしているが……」
少し怖気付いた門兵のひとりに詰め寄りながら、
「父ト母言ッタネー。外国行ッタラ、言葉ワーカリーマセーン言エテ」
言いつつ、私は顔を伏せた。
「……コノ街ニ、ワターシノジージトバーバイテハルヨー……会ッチャダメナノカー?」
私の仕草に、なんとなくバツの悪い顔になった門兵たちは、お互いに顔を見合わせる。
「……判った……通っていい」
溜め息を吐きながら、行け、というジェスチャーをした。
「オゥ! アリガートー! トモダーチー!」
門兵たちにオーバーリアクションで軽めのハグをした私は、オマケでウィンクと投げキッスを飛ばした後、何食わぬ顔で自転車を押して街の中へと入って行った。
『キミ、腹が黒いだろう?』
「まさか」
呆れたように言うヒートに、私は意地悪く笑ってみせた__