第五話『君を乗せて』
私が錬成したマウンテンバイク型の自転車には、二つないものがある。
ひとつはタイヤがゴムでないこと。
もうひとつは変速機が付いていないこと。
タイヤにはゴムの代わりに、馬車の車輪みたいに薄い鉄板の枠が嵌められていて、滑り止めとしてサラマンダーの革を張り付け、車輪と鉄板の間にも緩衝材として繊維を詰め込んでる。
「いくよ!」
サラマンダーの革と繊維で作ったサドルに跨がる。
『ああ』
床を蹴ってから力強くペダルを漕いだ私は、勢いよく部屋から飛び出した。
「おったぞ! あそこぢゃ__ぁ」
後ろから聞こえたお爺さんの叫び声が、一気に遠のく。
火と風の二次性質である軽さと多孔性によって、このマウンテンバイクはかなり軽量化されている。
自転車の平均速度は時速10〜15キロ、マウンテンバイクだと平均時速18~25km程度と、意外と早い。
スピードでは、恐らく追いつけないとは思うけど__
チラッと振り返ると、お爺さんの命令を受けたランプ頭のゴーレム達が、ぎこちなく大股で追ってきていた。
けっこー離れてはいるものの、ほぼ人体に即したシンプルなプロポーションをしているのが、こちらからでも判った。
__まぁ、つまり人体模型とか、デッサン人形とか、そんな感じの……。
ソレが数十体も、ガッチャンガッチャン、と擬音がつきそうな歩き方で押し寄せてくるのには、なかなか恐いモノがある。思わずペダルを漕ぐのを早めた。
「……あなた、出口って判る?」
『この先に上に向かうための動く床がある__ああ、アレがそうだよ』
ローブの内側から顔を覗かせたサラマンダーは、その先細った頭で前方を促した。
そこには、腰までの高さの柵に覆われた床があった。
なるほど、昇降機__エレベーターか。
色の違う床に自転車で乗り入れて、私は柵のひとつに取り付けられた降りたままのレバーを上に持ち上げる。
ごぐん、という音と微かな揺れと共に、エレベーターがゆっくりと上昇する。
『時間稼ぎをしておこう』
するりとローブから出てきたサラマンダーは、背中の皮膜でホバリングしながら、数発ほど火球を放った。
__ちなみに放ったのは口からではなく、全身からだ。
文字通り『火のトカゲ』型の火球は、床や一番近くまで迫っていたゴーレムに着弾し、爆ぜる。
あれ? ひょっとしてコイツ、無茶するタイプなんじゃ……。
『出口だ。いこう』
そう呟いて私の肩に留まるサラマンダーの表情は相変わらず読めないが、どこか安堵したように思えた__