第三十七話『魔銃使い』
二丁の銃口から流れるように放たれた『魔弾の群れ』が、次々とスケルトン型ゴーレムの心臓部を撃ち抜いていく。
「ゴーレムは私が相手するから、ふたりはスケルトンとゾンビにだけ集中して!」
「ああ! わかった!」
『承知!』
体術の射程内に入って来たゾンビに向かって後ろ回し蹴りを打ち込みつつ、私はふたりに言った。
解放したシリンダーから排莢された薬莢が、床に落ちる前に光の残滓となって霧散する。
シリンダーを戻した瞬間。ゼンマイを巻くような音を立てて即座に一回転したシリンダー内に、新たな弾がリロードされる。
『構築術式も構造設計も面白い銃だね』
『いいぞ〜やれやれ〜!』
魔弾を放っていると、コートの内側にいるヒートとサンドが呟いた。
スキル【物質変成】で魔力を『弾丸』として物質化できる、という事に今更ながら気づいた私は、同じスキル【合成】を使って『とある二種類の銃』を一つの銃として【合成】した。
まずひとつ。『ランスタッド・リボルバー』。
リボルバーでありながら、ハンドガンのようにグリップの部分に弾倉が内蔵されている珍銃。
弾丸を装填するシリンダーと、グリップに挿入するマガジンの両方を使用する給弾装置が付いている。
左側面のグリッププレートを兼ねた側面装填式弾倉から下側の薬室に弾薬が送られる。
射撃すると往復動作するボルトが上側の薬室からの排莢を行い、続けて下側の薬室への装填。そしてシリンダーの回転が起こり、次の弾の発射が可能な状態となる。
そして二つ目。『VAG -73』というオートマチック拳銃がある。
このハンドガンは、タンデム型マガジンという前後二列の弾倉を持ち、装弾数48発と拳銃とは思えない弾数を誇る。
__まあ、この二つの拳銃のユニークな特色を【合成】し、二丁の『コルトアナコンダ=コンストリクター』を錬成した。
シリンダー部分に6発、マガジン部分に48発。
一丁につき最大54発、二丁合わせて計108発の魔弾が内包された、文字通りの魔銃。
しかもスキル【物質変成】で物質化させた魔力を弾丸としてマガジン内に充填し続けているので、私の魔力が続く限り魔弾が尽きる事はない。
私のホムンクルスにして転生者としての『知力』を最大出力で活用した、今の私が錬成できる最高にして最強の魔双銃。
その名も【オルトロス】!
__あ、ちなみにこの【オルトロス】とは、ギリシア神話に登場する双頭の猛犬の怪物の名前である。
『刻め! “ツイスター”‼︎』
竜巻と化したハヤテの真空の刃が、巻き上げられたゾンビとスケルトンを斬り刻み、
「ぅおぉぉおぉおおおぉおおおぉぉお!」
大気すら断ち斬りそうなアルエさんの剛剣が、みっちりと壁のように居並ぶ魔物たちを、まるで熱したナイフでバターを切るかのように斬り崩していく。
『ひ、ひぃぃぃ! な、なんだコイツらはっ……は、早く! 早くご主人様にこの事をご報告せねば__』
独り狼狽えるゾンビが、人体構造的に曲がってはいけない方向に曲がった足を引きずりながら、乱戦エリアから離れていく。
たぶん、このヒト(?)がこの兵器工場の責任者なのだろう。
「ヒート! あのヒト追って!」
『ああ、わかった』
コートの内側から飛び出したヒートが逃げ出したゾンビを追うのを横目に、私は戦場を見渡す。
ゾンビやスケルトンはまだ多少残ってはいるが__取り敢えず、ゴーレムはあらかた片付けた。
あとゴーレムで残っているのは、戦闘に参加していない大型作業用ゴーレムたち。
見に行くと未だに採掘を続けていたので、どーやら本当に作業用に特化した構造と命令式だったらしい。
心臓部を撃ち抜くと、採掘場に響いていた騒音と地響きは止んだ。
__さて。
コイツらは一体なんの骨を素材にしているのか。
近づいた一体に、錬金術師の【分析力】を使って解析してみる。
「え゛っ⁉︎」
同時に発動したホムンクルスの【知力】によって判明した名称を見て、思わず後退る。
とんでもないモノを素材に錬成されている事がわかった。
同時に、納得する。
そりゃ、岩も砕くか。
何故なら、このゴーレムたちは__
『カノン』
呼ばれて振り返ると、頭だけになったゾンビを持ってホバリングするヒートがそこにいた。
__あの……コレはどーいう……。
『ボクは無傷で連れて来ようとしたんだ』
『暴れたので、アルエ殿が叩き斬ったでござる』
「……そう」
その当の本人のアルエさんを探す__居た。
剣を鞘に納めた直立不動のまま地面に突っ伏し、寝息を立てている。
そんな彼女に、スミスさんが何処からか持ってきた毛布を甲斐甲斐しく掛けている姿が目に映った。
__やっぱりあの剣……【狂化】の属性でも付与されてるんだろーか?
『ひ……ひぃぃぃぃ! お、お前たちは何者だ⁉︎』
首だけになったゾンビが悲鳴を上げる。
「あなたに聞きたいことがある。
スミスさんたちを殺してスケルトンにしたのは誰なの?
こんなに大量に兵器を作って、色んな場所や国に運んで、いったい何をしようとしているの?」
それから__
「このゴーレムを造ったのは誰?
ドラゴンの骨なんて素材、どこで手に入れたの?」
それが、このスケルトン型ゴーレムが岩をも砕ける強度を持っている理由だった。
ドラゴンの骨は耐火性に優れ、軽くて頑丈なので、最良の素材になる。
また骨に限らず、そもそもドラゴンという種族自体が様々な用途の素材として活用できる。
それこそ、吐く息が凝固して粉末状になったモノや、血液から排泄物に至るまで。
作業用大型ゴーレムの両腕の削岩機は、ドラゴンの歯とかぎ爪で生成されていた。
どちらも鋼と同じくらい鋭く強力で、ダイヤモンドほど硬くはないが、様々な鉱物の相対的な硬度を試すのに使用できる。
そんなモノがざっと数百体はいた訳で……。
「あなたたちは何者……?」
『ひぃぃぃぃぃぃッ! 喋るぅー! 喋りますぅー! だから助けてぇぇぇぇッ‼︎』
悲鳴を上げたゾンビは、半乱狂になりながら話し始めた。
『ここは四界の大王【スメラギ ミカド】様がご自身の野望のためにお作りになられた兵器工場のひとつで、種族を問わず各国に出荷し利益を得る以外に争わせる事で互いを疲弊させ、弱り切ったところを一気に侵略し、一瞬で世界を掌握するという画期的かつ偉大なるやぼ__』
そこまでだった。
ゾンビは私たちが見ている目の前で、突然爆発した。
「__っ⁉︎」
「__死体のクセにベラベラ喋り過ぎだ、莫迦め」
突然、そんな男の声が聞こえた__




