第三十二話『月明かり 脱出』
私が武器を剣から銃に変えたのは他でもない。有効だからだ。
彼らは首から下だけに鎧を着ていた。
つまり頭は覆面しか付けておらず、無防備状態だった。
だから、銃にした。
コレならかさばらないし、体術の有効範囲外にいる相手にも攻撃できる。
何より、相手が魔法を唱えるより、こちらの方が幾分早い。
「ぐぉっ⁉︎」
足払いを掛けて床に倒した忍者の腹の上に片足を乗せ、銃で頭を撃ち抜いた。
__コンストリクター。コルトアナコンダというリボルバーをベースにした銃がある。
オートマチックハンドガンのような銃身に回転弾倉がついた、ゴツイ大型拳銃だ。
ソレがコイツ。
リボルバーにした理由は、弾詰まりしないのと、緊急時の即応性に富んでいるから。
これは実際に警察官やボディーガードがリボルバーを使っている理由にもなっている。
「……ふん」
銃口から微かに昇る煙を吹き消し、くるり、と手の中で回して、私は腰のガンベルトに仕舞った。
ちなみに魔力を弾丸及び弾薬として射出しているので、実質弾切れはない。リロードに要する時間すら必要としない。
ただ一応、装弾数の管理は必要だ。
シューティングゲームのように、脳裏の視界の隅っこに弾が込められた回転弾倉のアイコンがあって、アーケード系のゲームのように銃を上に向けると自動で補充されるようになっている。
__はて?
造っといてなんだが、なんで私はこんなにも銃の扱いや構造や体術(それも古武術の類い)に詳しいんだろう……?
確かに私は転生者なので、このゲーム要素が混じった異世界とは違う世界の知識を持ってはいる。そしてこの世界の『ゲーム的要素』の部分をある意味逆手に取ったカタチで、この銃を錬成した。
しかし__
ソレをプラスしたとしても、ホムンクルスとしての知力と錬金術師としての解析力だけでは説明がつかない気が……。
『新たなスキルを獲得しました』
スキル
【射撃】New!
チリン、という鈴の音と共に、黄ばんだ羊皮紙を模したウインドウが、網膜に現れる。
「おぉぉおぉおおおぉおおおぉぉお!」
お腹の底から放たれる叫び声に、私は意識を現実に戻す。
声の主は他でもない__アルエさんだ。
彼女は腰を低く落とし、体重を踵から爪先へ移動させ__消えるように跳んだ。
「ぅおぁあぁぁああぁぁああぁああぁぁああぁあぁあらぁ‼︎」
異様な打撃音は、雷鳴のようでもあり、祭り太鼓のようでもあった。
時の刻みが停止したかのような、その異様な一瞬。
私が見ているものの意味を理解するより早く、アルエさんは全てを終えていた。
じゃりっ、と土を鳴らして地を踏む。
忍者軍団の、その肉体は、分解した。
両腕は絶ち斬られ、
胴は腰まで断ち割られ、
首から切断された頭部は十文字に切り裂かれた。
いくつもの肉片が投げ出される勢いで地に転がり、叩きつけるように大量の鮮血が撒き散らされた。
__渡すもの間違えたかなぁ……?
荒々しいその戦い方は、騎士から狂戦士に転職しそうな勢いである。
まさかホントーに全員の息の根を止める気なんじゃないだろーか?
『そろそろ彼女を止めた方が良いね』
ブローチから元の姿に戻ったヒートが、私の斜め上の頭上をホバリングしながら言った。
『然り。この場から去る体力まで使い切ってしまうでござる』
同じく襟巻きから元の姿に戻ったハヤテが、斬り倒した忍者の腹の上で呟く。
まぁ、問題は……果たして止まってくれるかどうか__
最悪、殴って止めるしかないのだが……正直、今のアルエにあまり近づきたくない。
「お姉ちゃん……そろそろ脱出しよ。私たちまで焼け死ぬ」
意を決して近づいた私は言った。
アルエさんはしばらく私を見つめたあと、
「……そう、だな……急ごう、カノン!」
長剣を振って血を落としてから鞘に戻し、頷いた。
先程までの荒々しさは、見る影もなくなっていた。
__やはり渡すものを間違えたのだろうか?
あの剣に、狂戦士になるなんて効果はなかったはずだが……?
結局、あの忍者軍団が何者なのか判らぬまま、私たちは燃え盛るゴルドラス・シティを後にした__
__あ、ちなみにホテルのオーナーと珍堂の店主は無事でした。




