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第三話『誰かが突然ドアを叩く』


 隠し扉の先に広がる通路は、明かりがいっさい灯っていなかった。


「む……」


 扉を開けた時、微かに臭った。

 コレは、獣油(ラード)を使ったランプ特有の癖のある臭いだ。

 どーやら、元々この通路には明かりが灯されてはいなかったらしい。

 暗がりに入った瞬間、


「お……」


 自動的に発動したスキル『暗視』の効果によるモノだろう。まるで通路自体が淡い光を放っているかのように、一気に明るくなった。

 正五角形の状態で縦に伸びたトンネルには、左右に幾つか、等間隔で扉が設定されていた。

 一個づつ開けて中を確認したかったのだが、鍵がかかっていたり、扉ごしに猛獣の唸り声や、何かの生産工場みたいな騒音が聞こえてきたので、気づかれないうちにそっと離れる。


「げっ……⁉︎」


 しばらく歩いていると、前方の通路から、複数の足音が聞こえてきた。

 足音が近づくたび、地面が微かに振動し始める。

 何か重いモノが複数、こちらに向かって来ているようだ。


 __()()()……⁉︎


 嫌ぁな予感が、私の脳裏をよぎった。


『おのれアノ()()めっ! 目にモノ見せてくれるわ!』


 遠くから、あのお爺さんの声が聞こえてくる。


「ひ……!」


 __(まず)い! 逃げ場がない!


 通路は一方通行で、隠れられそうな場所はない。しかも、扉のほとんどが閉まっている。


 どうしよう……どうしよう!


 その時__


『こっち。こっち来て』


「えっ⁉︎」


 たまたま近くにいた扉から、そんなか細い声が聞こえた。


『早くはやく』


「……っ!」


 ボンッ、とこちらに勢いよくドアノブが吹っ飛んだ扉が、内側に少し開く。

 私は滑り込むように中へと入り、音を立てないよう扉を閉める。

 拾ったドアノブを持った手から、ジュッ、という音が聞こえた気がした。

 足音が遠ざかるまで、私は扉の前から動けなかった。


『危なかったね』


 背後からそんな声が聞こえて、反射的に振り返る。

 何かの倉庫なのだろう。

 様々なものが置かれたそこには、箱のような小さな檻に入れられた、斑点を持つオレンジ色の小柄なトカゲが、つぶらな瞳でこちらをジッと見ていた。


「あなた……」


 ホムンクルスとなったことで、あらゆるコトを知っている『知力』と、錬金術による物質の『分析力』が備わっている私には、この生物が何か(わか)る。

 サラマンダー__火の精である。

 だが少し……姿が違うような……?


 このサラマンダーの外見は、コエルロサウラヴィスという、古代に生息していたドラゴンに似たトカゲに酷似している。


『ねえ、キミ……そんな格好で寒くないの? ニンゲンって、服を着るもんなんだろう?』


 言われて、思い出した。

 そーいえば裸だった……。


「私はホムンクルス。さっき起きたばかり。だから、服を探してる。あなたは知らない?」


『ああ、なるほど。だからキミ……ある意味、ボクと一緒だね……よし、判った。じゃあ取引しよう。ボクをこの檻から出してくれたら、キミに服をあげるよ』


 私はこのサラマンダーに、何故だかシンパシーを感じていた。

 この子……私と一緒だ……。


「……判った。どうすれば良い?」


 言いながら、私はサラマンダーが入っている檻に近づく。


『この檻はどうやら錬金術で施錠されてるみたいで、鍵がないんだ。かと言って、ボクは錬金術は扱えない。生まれたばかりのキミに無理を言うんだけど__』


 つまり、錬金術で壊せと……。


「……やったコト、ない……」


『大丈夫、出来るさ。ホムンクルスの知識は全能なんだ。そうだな……じゃあ、こうしよう。ボクがこの檻を燃やすから、キミは水の錬成術式を使って欲しい』


「……判った。やってみる」


 錬金術に()いて、火は冷たく凝り固まった元素を解きほぐして混ぜ合わせる性質を持ち、対極ではあるが、水は物質の形を柔らかく扱いやすい物に変えられる。


「……行くよ」


 小さく頷いたサラマンダーに、


「なるべく離れてて」


 と言って檻を跨いだ私は、瓦割りの要領で拳を構えた。

 頭の中で組み上がった水の錬成術式の()()として、先ほど習得した戦闘特技【マジック・ブロウ】を放つ!

 つまり、水属性のパンチだ。


「ふっ!」


 短く息を吐くと同時に、淡い光球に包まれた拳を放つ。

 瓦割りのコツは、力を垂直にかけ、最下の中心部に目掛けて真っ直ぐ、体重をかけて振り下ろすこと。


「燃やしてっ!」


『判った』


 お腹に響く、ボンッ、という音と共に、檻が激しく燃え上がる。

 分厚く黒い金属と、グローブのように光に包まれた私の拳がぶつかる。

 金属同士が激突する派手な音を立てたものの__


「ちっ!」


 __歪むだけだったか!


「もう一回、やる」


 一度腕を腰の位置まで引いた私は、今度はもう少しだけ複雑な術式と多めの魔力を拳に集中させる。


「いくよっ!」


『ああ!』


「せいっ‼︎」


 気迫のこもった声と共に、拳を放つ。

 先程とは違い、激流と同等の速度と威力を纏った私の拳は、があん、という音を立てて、熱された檻を、粘土を潰すかのように破壊した。


『体術スキル【海龍破】を獲得しました』


『ありがとう』


 壊れた檻からのっそりと出てきたサラマンダーは言った。


『出してくれたお礼に教えてあげるよ。気づいてないみたいだけどキミ……さっきドアノブ触った時に、火傷してるよ』


 __ああ、あの『ジュッ』って音は皮膚が焼けた音だったのか……。


 それから、と、サラマンダーは続ける。


『見たところ【赤きティントゥクラ】が埋まってるみたいだけど、その右目は見えてるのかい?』


「え゛っ⁉︎」


 言われて触って見る。

 痛まない。

 硬い。

 私の右目には、半球体状の大きなレンズが一つ、右目の代わりに埋め込まれていた__


烏滸がましいとは思いますが、もしよろしければコメント&評価ボタンなどしてくださると嬉しいです!

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