第二十八話『一輪の華』
話を聞いてみると、どうやらアルエさんは隊長の付き添いとしてパーティーに参加したらしい。
「……でも、よく私だって判ったね。みんなと同じ仮面つけてるのに」
サーモンのアクアパッツァを食べながら、私は言った。
「ああ、なに。簡単さ__」
手にしたシャンパンを一口飲んでから、彼女は私の髪を一房、手の甲で触れる。
「君の髪は上質な絹のように滑らかで艶やかな金糸の色をしているからね。
肩に友人たちが乗っていなくても、一目でカノン殿だって判ったよ」
そう微笑みかけるアルエさんに、
「……やだ、もぉ……!」
私は思わず目線を逸らした。何故だか顔が熱くなる。
__え、もしかして私この女騎士に口説かれてる……?
『なかなか言うね、彼女』
『口が上手いでござるな』
どこか感心したように、精霊たちは言った。
『だが確かにボクたちがいる事で、カノンが目立ってしまう。この場において目立つと言う事は、今のボク達にはマイナスでしかない。何故なら此処は、自分はそれなりに権利を所持している、とアピールする場なのだから』
『ふむ? ……ああ、そう言う事でござるか……では如何なさるか?』
『簡単だよ、ハヤテ。キミは化れるだろう?』
その言葉に、ハヤテは眦を釣り上げて険しい顔をする。
『……拙者は狐狸精の類いではないでござる。物の怪と勘違いしておらぬか、ヒート殿?』
『ニヒヒ……冗談だよ__カノン。ボクたちをタップしてみてくれないか?』
「え……?」
言われて、その通りにしてみる。
すると__
「え゛っ⁉︎」
『スキル【物質変成】を利用して精霊たちを一時的にアイテム化しますか? はい/いいえ』
と言う羊皮紙色のウィンドウが、目の前に表示された。
『ああ、そのままアイテム化を選択してみてくれ』
__い、いいの……?
『構わないさ』
頷き、私は『はい』をタップする。
「うっ⁉︎」
ふたりは、一瞬だけ光に包まれた。
光が収まると、ヒートとハヤテの姿は変わっていた。
ヒートは【トカゲのブローチ】に、ハヤテは【イタチの襟巻き】に。
『【火蜥蜴(合成獣)のブローチ】を装備しました』
『【鎌鼬のティペット】を装備しました』
と言うウィンドウメッセージが、脳裏に表示された。
「ふ、ふたりとも大丈夫……?」
『ああ。問題ないよ、カノン』
『うむ』
ふたりが喋るたびに、目の部分がチカチカと点滅する。
『これでキミが目立つ事はないよ』
いや、ソレはそうなのだが…….。
「驚いたな……今のも錬金術か?」
ずっと成り行きを黙って見守っていたアルエさんが、目を丸くしながら言った。
「そう。物質変成。物質を違うモノに変える。ヒートとハヤテを装備品アイテムに変えた」
……ホントはしたくなかったケド……。
「なるほど。賢明な判断だな」
言いつつ、アルエさんはパーティー客の方を向いた。
「そのふたりはここでは珍しい。もちろん、君自身も。だから先ほどまでの君たちは、良からぬ事を企てている輩に『無防備なのでどうぞお好きに狙って下さい』と言っている状態だったからな」
「え゛っ」
言われて、気づく。確かに先程まで感じていた視線は、アルエさんが話しかけて来てから感じなくなっていた。
「あっ」
__じゃあ、もしかしてわざわざ話しかけてくれたのって……?
「あの__んっ」
私が何か言う前に。アルエさんは私の口に人差し指を押し当て、塞いだ。
「暗闇で輝く可憐な花を一輪、愛でたかっただけさ」
仮面の奥で、目配せしたのが判った。
__うわ。
この人……かっこいい……!




