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第二十六話『金の仮面を被って』

 室内には、正面中央に分厚いデスクが置かれ、セットになった椅子は重厚な革張り。

 デスクとその手前に置かれたテーブルは大理石だ。そのテーブルを挟んで向かい合った二人の人物が、こちらを見ていた。


「お嬢ちゃん、ココ座るよろし!」


 そう言って自身の隣の席を叩く店主の横に、私は腰掛ける。


「部下が失礼をしたようで……申し訳ない」


 そう言って頭を下げてくるのは、タキシードの上からでも判るくらいはち切れんばかりに筋骨逞しい人間の肉体に雄牛の頭が乗った人物__ミノタウロスと呼ばれる獣人だった。


 __腰掛けた時に『申し訳ない』が『モォ、し訳ない』と聞こえたのは、先入観による聞き間違いかもしれない。


「兄弟の事はキチンと伝えていたはずなのに……情報伝達が上手くいっていなかったようで……モォ、なんとお詫びして良いか……」


 __いや、聞き間違いじゃなさそう……。


 2メートルをあっさり超える巨体のはずなのに、私には彼の肉体がシュルシュルと(しぼ)んでいくように見えた。


「まぁ、過ぎた事ヨ。アイツらはこのお嬢ちゃんが叩きのめしてくれたから、私の溜飲(りゅういん)はおさまったネ!」


 それより、と店主は続ける。


「さっきもだけど私このお嬢ちゃんにタイヘン世話なた! 是非(ぜひ)お礼したい!」


 言いながら、店主は私の両肩を掴む。


「このお嬢ちゃんはナ! スゴウデ錬金術師ネ! お嬢ちゃんが錬成したブツで私さっさと店仕舞いできたヨ! ソレだけじゃないネ! ココに来る前に壊れた私の馬車と馬直してくれたた! ホント神様ヨ!」


 やや興奮気味に話す店主のその言葉に、ミノタウロスは目を見張る。

 巨体に対して、つぶらで小さな瞳だった。


「そうでしたか……判りました」


 ミノタウロスは頷くと、おもむろに立ち上がってデスクまで向かう。

 そして引き出しから、小箱くらいの大きさの何かを取り出して、こちらに戻ってくる。


「こちらはVIP会員限定の『会員証』兼『優待券』となっております」


 そう言って持ってきた小箱の蓋を開け、私の前に置いた。中身は、純金に宝石が散りばめられた【豚の仮面】だった。

 __まあ、別にふざけている訳ではない。

 豚は古代ギリシャやローマでは食糧として価値が高く、安産で子だくさんということもあり、富と繁栄の象徴とされている。

 豚型の貯金箱があるのは、そう言う理由からだ。

 だから、まぁ、ゴールドラッシュが盛んな街だから、ソレにあやかって縁起物の豚を仮面にしたのだろう。


 この世界は、よくあるファンタジー物のゲームや漫画やその手の小説の中のような『ゲーム的要素が組み込まれた』異世界ではあるけれども。


「当ホテルとカジノをご利用の際は必ずお付けください。チップとサービスが全て無料かつ各種ゲームと施設内サービスを優先してご利用できます」


 そうそう、とミノタウロスは続ける。


「ゴルドラス・シティにご滞在中は当ホテルの最上階にあるスイートルームをお使い下さい。それから、今夜はパーティーがございますので、是非ご参加下さい」


 頷きつつ、私は仮面を被った。


『アクセサリー・アイテム【黄金のセルド】を装備しました。装備中は【ホテル・コロッセオ】の全てのサービスが無料で使用可能となります』


 という、お馴染みの羊皮紙色のウインドウが、脳内に表示された。

 __セルド。

 スペイン語で『豚』と言う意味だ。


「長旅で疲れたダロ。お嬢ちゃん、夜まで部屋で休むよろし! ここの眺めはサイコーヨ!」


『そうした方が良いよ、カノン』


(しか)り。しっかりと旅の疲れを癒すでござる』


 ヒートとハヤテにも促されたので、私は部屋を出る前にスイートルームの場所を聞き、ロビーで鍵を貰ってからあてがわれた部屋へと向かった。


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