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第二十二話『交わした約束(ことば)の先』

 初クエストを終了し、首謀者である魔導士を冒険者組合に引き渡した数日後__


「……ホントに良いの?」


 錬成陣を描きながら、私は言った。


『兄上たっての願い故。それに拙者も、カノン殿になら安心して(たく)せるでござる』


 好きになされよ、とハヤテは言った。

 魔導士の呪縛から解放された彼女の兄__ふうのしんは、残念ながらすでにその生命が尽きていた。

 解放され、事切れる前に発した言葉は謝罪と、ハヤテの事と、自身の亡骸(なきがら)について。


 ふうのしんは私に言った。


『死してなお誰ぞやによってよからぬ事に使われるより、そなたのような御仁に使われる方が本望なり』


 何故なら、


『貴殿は我が妹が認めた唯一の御仁ゆえに。どうかその堅物を頼みまする。人によって造られ、されど人より我らに寄り添う心優しき錬金術師どの』


 そう言って、最後に彼はほんのり笑いながら息を引き取った。


「……判った。じゃあ始めるよ? ふたりとも、準備は良い?」


『ああ』


『いつでも構わぬ』


 錬成陣の真ん中に故障した一輪車型ゴーレム(とほほ……)とふうのしん、それから幾つかの素材を置き、私たちは錬成陣を囲むように描いた逆三角形の端に描いた円の中にそれぞれ立つ。


「__水と土は身体を構成し、その安定を助け、火と風は生命力を構成し、その運動を助ける。是即(これすなわ)ち森羅の(ことわり)、万象の()、等しく生命(いのち)は循環せり__“シェム・ハ=メフォラシュ”」


 右目の【赤きティントゥクラ】が鈍く光り、錬成陣から紫電(しでん)を帯びた閃光が(ほとばし)る。

 光が収まると、ソコにはメタリックなライムグリーンの甲冑を思わせる一台のランドナーが、薄らと煙を纏わせて佇んでいた。


 __うん、いい感じに生成できたかな?


 今回の錬成には、ヒートとハヤテの精霊としての力も加わっ(ブーストされ)ているので、今までのゴーレムとは違うし、今までの錬成に比べて術式が少し複雑になっている。


 自らの意思でこちらへとやって来た自転車の鉄輪(ホイール)が、ごろごろと音を立てて、石畳を踏む。

 ドロップハンドルと呼ばれる、競技用の自転車などに多く見られるちょっと特殊な形状のグリップを掴み、私はサドルに(またが)った。


 __よし。


「行こう。ヒート、ハヤテ」


『ああ』


『うむ』


 頷いたふたりは、それぞれ私の両肩に乗る。

 試運転も兼ねて、街の様子を見に行こう。

 床を蹴って、私はペダルを漕ぎ始めた。


 午後を少し過ぎた街は、復旧作業前の賑わいを取り戻していた。


「お〜い! カノ〜ン!」


 呼び止められたので自転車を止めると、そこには旅支度を終えた『ぱろぷんて』のメンバーが揃っていた。


「……みんな、どこか行くの?」


「ああ! もうこの街に、俺たち冒険者の手伝いはいらねーみてぇだしな!」


「だからアタシたちはこれから別の街やダンジョンに行くわ!」


 そうどこか興奮気味にいうアルトくんとアリアちゃんに、ふぅん、と呟く私に、


「キミはどーする? 僕たちと一緒に来るかい?」


「カノンちゃんとは、まだパーティを組んだままですし……そ、ソレに、みんなと一緒に旅をするのは楽しいですから。

 ど、どうですか……?」


 クリムさんとニアちゃんが訊ねてくる。


 __うーん……。


「……貴方たちは、この街から出たらどの方角に行くの?」


「え? そうだなぁ……取り敢えず西に向かおうと思っているよ」


「でっけえ船があるんだぜ!」


 そう、と呟き、私は続けた。


「じゃあ私は北に行く」


 確か北は鉱山地帯だったはずだ。錬金術に必要な鉱石が採れるかもしれない。


「ええっ⁉︎ 一緒に来ないの⁉︎」


「なんでだよ⁉︎ 一緒に冒険しよーぜ、カノン!」


 そう騒ぐアルトくんとアリアちゃんに私は笑う。


「途中の道までは一緒」


 それに__


「貴方達には貴方達の。私には私の冒険がある……と、思う」


 その言葉に、なるほど、とクリムさんは頷いた。その口に、優しい笑みを刻みながら。


「そうだね。錬金術師の旅と、僕たち冒険者の旅は、ちょっと意味合いが違うね」


「ちょっと残念ですけど、でももう会えないってわけじゃないですしね!」


「またどっかで会おうぜ、カノン!」


 分かれ道で、お互いにアイテムを交換し終えてから、アルトくんが手を伸ばしながら言ってきた。


 __握手だ。


 握り返しながら、私は頷く。


「じゃあね、カノンちゃん! ヒートちゃんもハヤテちゃんも元気でね!」


 その手の上に、アリアちゃんが自身の手を重ねる。


「くれぐれも無茶はしないようにね? まぁ、きみはアルトほど無茶はしないだろうから、大丈夫だとは思うけど」


 それに(なら)うように、クリムさんも腕を重ね、


「……オイ、どーいう意味だよクリム⁉︎」


「ま、まぁまぁ、アルトくん……カノンちゃん、どうか健やかに……貴女の旅路に幸多からん事を祈ってますねっ!」


 ニアちゃんが、今にも泣きそうな顔で笑う。


「うん。また会おう」


 その日まで__


「バイバイ」


 そう言って、私たちは別れた。

 彼らは海を。

 私は山を目指して。


『冒険者パーティ【ぱろぷんて】とのインスタントパーティを解除しました』


 ちりん、と脳内でそんな音と表示を感じながら__

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― 新着の感想 ―
シェム・ハ=メフォラシュカッコいい✨✨✨✨ ハヤテが仲間になってくれて良かったねカノンちゃん!
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