第十九話『風を捕まえて』
五ヶ月ぶりの更新です
ホイールのサイズは大型4WD車のものとほぼ同じ。
わかりやすく例えると、ピザとドーナツが合体したよーな形状の一輪車だ。
「……見つけた!」
数メートル先の前方に、緑の滑らかな毛並みをしたイタチの後ろ姿を確認した。
「キッ!」
私に気づいたイタチ__いや、シルフは、中程が偃月刀のように硬質に変化した尻尾を振り上げながら小さく威嚇の声を出す。
『カノン』
建物の軒先から舞い降りたヒートが、私の肩に留まる。
『気をつけて。あのシルフ、かなり気が立ってる』
「ん、わかった。ありがとう」
言いながら自転車型ゴーレムから降りて、シルフにゆっくり近づく。
取り敢えずまずは、落ち着かせよう。
「ガーッ!」
という威嚇の声が、
『近づくな! ニンゲン! 寄らば斬るっ‼︎』
私には【言語翻訳機能】を通じて、そう聞こえた。
「落ち着いて、危害は加えない。だって私はホムンクルス。人間じゃないから」
今にも飛びかかりそうだったシルフの動きが、ぴたり、と止まる。
『なっ……⁉︎ き、貴殿は、拙者の言葉が判るのかっ⁉︎ それに……ホムンクルス、とな……⁉︎』
驚いた拍子に、刃物状に硬質化していた尻尾は元に戻った。
「うん、そう。私は人間に造られた存在。人間に見えるかもしれないけど、人間じゃない」
証拠を見せるために、私は右目の眼帯を外した。
おう、と、シルフが唸る。
「どう? あなたとちゃんと話せて、右眼に【赤きティントゥクラ】がある人間なんて……あなた、見たことある?」
『い、いや……しかし人間でないというだけで、貴殿が拙者の敵でないという確証はないでござる!』
小さな後ろ足で地面を叩きながら、シルフは再び尻尾を偃月刀に変えた。
『確かに』
私の肩に留まるヒートが呟く。
『あのシルフの言う通りだ、カノン。ボクたちにはシルフの味方であるという確かな証拠がない』
「ん、まあ、それはそうだけど……」
『さあ、どうやって証明する? どうすれば、キミはボクたちを信じるんだい?』
相変わらず表情が変わらないが、私にはヒートが意地悪く笑っているのが判った。
コイツ……絶対この状況を楽しんでる……!
『知れたこと! 貴殿らが彼奴の仲間でないと証明せよっ‼︎』
『あやつ?』
同時に声を上げた私とヒートは、これまた同時に首を傾げる。
『それは誰のことを言っているんだい?』
ヒートの疑問に答えたのは、
「“ウィンド・シア”」
という声と共に、背後から立ってられないくらいの突風が吹き込んできた。
「えっ……⁉︎」
私たちの背後に突然現れたのは、肩に緑の毛並みのイタチを乗せた一人の魔導士だった__




