第十八話『復旧作業』
翌朝。
イタチ型のシルフを捕まえるために、私はそのテのクエストがないか、ギルドに来ていた。
ちなみにヒートは、単体でシルフの捜索を行なっている。
「はい、確かにそのような『風』に関する被害報告が、複数件寄せられています。カマイタチや突風の他に、風が起きる前後に必ず小さなイタチみたいな生き物を見たとも」
「ソレ。ソレ受ける」
「承りました。クエストを受諾します」
受付嬢から依頼書のハンコを貰い、私はギルドを出る。
「さて__」
街は至る所に物が散乱していた。
住人たちに混じって、冒険者たちが街の片付けを手伝っている。
その中に、アルトくんたちの姿もあった。
「あ、カノンちゃーん! どーだった? 依頼、受けれた?」
私に気づいたアリアちゃんが、遠くから手を振りながら駆け寄ってくる。
「うん、受けた。これから捕まえに行く」
そっか、と呟いたアリアちゃんは、
「がんばってっ!」
と言って、胸の前でグッと両拳を握った。
「き、気をつけて下さいね、カノンちゃん! くれぐれも、怪我のないように、ですよっ」
ニアちゃんも近づいてきて、同じポーズをして言ってくる。
「うん、大丈夫。貴女たちも、気をつけて」
言いつつ、チラッと撤去作業をしている方を見た。
「危ないことしちゃ駄目だよ、アルト!」
「わぁかってるって、クリム__うわ! たた、わた‼︎」
「アルト⁉︎ ああ、もう言ったそばから……アルトぉー‼︎」
「あンのバカ何やってンのよっ⁉︎ ちょっと生きてンでしょうね、バカアルトぉーっ!」
「アルトくーん! 大丈夫ですかぁーっ⁉︎」
__作業は思ったより難航している。
やはり人力だけでは、どうしても限界があるのだろう。
せめてブルドーザーとか、ショベルカーとかがこの世界にあれば良いんだけど……。
「あっ……そっか」
無ければ造れば良いんだ。
「ねえ。あの瓦礫にあるやつは、もういらないやつ?」
作業している冒険者の服の端を引っ張りながら、私は聞いた。
「ん? ああ、ありゃゴミだよ。危ないから、近づいちゃダメだぞ?」
「そう、ありがとう」
お礼を言って、私は【ぱろぷんて】のメンバーに声をかける。
「どしたー、カノン?」
頭に大きめのタンコブを作ったアルトくんが言い、
「あれ? アンタ、依頼はどーしたの?」
アリアちゃんが、首を傾げる。
「うん。みんな大変そうだから、今からゴーレム造る。私も、みんなを手伝いたい」
__タンコブ以上の怪我しそうだしなぁ……アルトくん。
思いながら、私はさっそく作業に取り掛かった。
水銀で描いた円の中に、粉末にした硫黄で三角形と、塩で逆三角形を描く。
このふたつを重ねて六芒星を描くと、硫黄の三角形の中間あたりに横線を、同じく塩の逆三角形の中間あたりに横線を引く。
最後に、廃棄予定だった木材や石材と、レッサーオーガの骨の素材を真ん中に山のように積んで、コレで【錬成陣】の完成だ。
あとは【אמת】と言う文字を書いた羊皮紙を貼って、準備は全て完了した。
ちなみにこれはヘブライ語で、『emeth』を意味する。
「こほん__んっ、んっ!」
では、始めよう__
「__水と土は身体を構成し、その安定を助け、火と風は生命力を構成し、その運動を助ける。是即ち森羅の理、万象の環、等しく生命は循環せり__」
ホムンクルスとしての『知力』の中にあった『ゴーレムの製造方法』に従って、私は仕上げの呪文を唱える。
「__シェム・ハ=メフォラシュ」
右目の【赤きティントゥクラ】が、眼帯越しに鈍く光った気がした。
錬成陣から、パリッと紫電を帯びた閃光が迸る。
ややあって光がおさまったソコに、数体のゴーレムが、身体から煙を纏わせて佇んでいた。
素材が角ゴリラ……もとい、レッサーオーガだったからか、見た目は何処となくサルっぽい。
__あれ? なんかデザインの方で失敗した感がすごくある……。
固唾を飲んで見守っていたアルトくんが、
「す、すっ……スゲェ!」
骨色の外骨格に覆われたサルを見て、目を輝かせながら叫んだ。
「うん、大したもんだよ!」
クリムさんは満面の笑みで、何度も頷く。
「へぇー! 錬金術ってこんな感じなんだぁ〜! なんか召喚術に似てるね!」
「まあ! お猿さん! 小柄だし手先が器用で身軽だから、こういった作業もスムーズに済みますね!」
「え、えーと……」
__いや、偶然です。本当はデッサン人形みたいな簡素なモノにする予定だった。
『新たな初期錬金術を習得しました』
【ゴーレム・クラフト】New!
「ゴーレムたちは命じた通りに動く。うまく活用して作業してほしい」
言いながら、残った素材を使って同じような要領で作成した自転車に跨る。
自転車型のゴーレムだ。
と言っても、二輪車じゃない。小回りを重視した、ハンドルとスタンドの付いた一輪車だ。
種別的には__ああ、電動自転車って【魔導機馬】扱いになるのか、コレ……。
まぁ、確かにトラック・トレーラー用のタイヤをあいだに抱えて走る装甲馬のよーな形状をしている。
タイヤはゴム製じゃなくて、鉄輪だけど。
「さて__」
じゃあ、風を捕まえに行こう__




