第十七話『初クエスト』
野山から半日ほど歩いた距離に、街はあった。
とっぷりと日は暮れていたが、それでも商店街は賑わっている。
「取り敢えず僕はギルドにレッサーオーガのことを報告してくるよ。は〜い、着いて来たい人は手をあげて〜?」
「はいはいはーい! 俺行きたい! レッサーオーガのこと話して、ランクアップしてーもん!」
クリムさんの言葉に、アルトくんだけが手を挙げる。
「ギルドって?」
「ああ、冒険者組合のことよ。仕事の斡旋所と安宿と喫茶店と酒場を混ぜ合わせた、ちょっと下品な場所よ」
私の質問に、私と同じくらいの身長のアリアちゃんが答えてくれる。
「あれ? もしかしてカノンちゃん、ギルドに登録なされてないんですか……?」
私より身長が高くて少しだけ年上らしいニアちゃんが、目線を合わせようと腰を屈めながら小首を傾げた。
「……登録、した方がいいの?」
「そうだねえ……絶対、ってわけじゃあないけど、冒険者として登録しておけば色々と旅が楽にはなるよ。例えば__」
と言って、クリムさんはカバンから刻印が入った袋を取り出した。
「これは通称『ギルド通貨』って言う冒険者専用の特殊な軽いメダルなんだけど__
通常の硬貨と違うのは、大小の銀貨しか無いと言うのと、装備品や消耗品の購入から街の施設といったものを、比較的安い値段で利用できると言う点。あと、相乗りにはなるけど長距離馬車や武装船で海を渡れる」
「ふぅん……」
一枚手に取ってみたが、小銀貨は一円玉くらいの大きさと重さしかなかった。ちなみに大銀貨は500円玉くらいの大きさで、重さは小銀貨と変わらなかった。
「登録しようぜ、カノン! んで、一緒に冒険しようぜ‼︎」
「こらこら、アルト? 決めるのはカノンちゃんの自由だよ?」
『どうする、カノン? ボクはキミの好きにすれば良いと思うよ』
しばらく考えてから、
「……じゃあ、登録する。私は、旅をしたい」
私はそう呟いた。
「オーケイ。じゃあ一緒に行こう!」
__というわけで、私は【ぱろぷんて】のメンバーと一緒にギルドへと向かった。
冒険者組合で、ものすご〜くカンタンな手続きを済ませて、私は料理屋でパーティメンバー達と、ささやかな祝杯を挙げていた。
『冒険者登録おめでとう‼︎』
「……あ、ありがとう……」
「さあ、カノンちゃんの冒険者としての初仕事は明日にして、今日は食べて飲んで楽しんじゃおう!」
クリムさんの言葉に『おーっ‼︎』とメンバー達はジョッキを掲げる。
程なくして、どんちゃん騒ぎが始まった。
『良い人たちだね』
「うん」
__なんでだろう? ずっとドキドキしてる。
「あ、あのっ……カノンちゃん」
こっそりと、ニアちゃんが話しかけてくる。
「そ、その……気にしなくて、大丈夫ですからね!」
と言って、彼女は自分の目に指を向ける。
「わっ、私も【エルフ】ですけどっ! で、でも、この人たちはそのっ……他の人たちとは違いますからっ! あっ! も、もちろん皆さんには言いませんからっ!」
「え? ああ、良いよ別に。バレても大丈夫……って待って。貴女、エルフだったの?」
「あれ? 言ってなかったかなあ? ニアちゃんはエルフの僧侶なんだよー」
ほろ酔い気味のクリムさんが、にへら、と笑いながら言う。
「ニアの回復と支援魔法ってスゲーんだぜ!」
アルトくんは興奮して鼻を膨らませながら言った。
「そーそー! エルフとかカンケーなく、ニアちゃんだからスゴイのよ!」
早くも酔っ払い始めたアリアちゃんが、叩き割らん勢いでジョッキを置く。
「みっ、みみみ、皆さん褒めすぎですよぉっ! わ、わわわ、私はっ、凄くなんて……」
「あは……」
判った。いますっごく楽しいんだ__
『カノン』
突然、テーブルの上にいたヒートが袖口を引っ張った。
「え? なに、ヒート?」
『大変だ。外で風が暴れてる』
__え?
言われて、窓から外を見る。
「なっ……⁉︎」
外はいつの間にか大嵐になっていた。
「オイ、嵐かよ!」
アルトくんの叫びを、
「……違う」
私は否定する。
今日の天候や雲の流れは、嵐がくる予兆が全くなかった。
ジッと見つめたその先に__見つけた。
「アレが原因」
その荒れ狂う暴風の中に、何かが居る。
「私の初クエスト、何にするか決めた」
えっ? となったメンバーに向けて、私は笑う。
「アレ捕まえる」
それは、イタチの姿に似た風の精__【シルフ】だった__




