第十一話『月明かりふんわり落ちてくる夜は』
ばしゃり、ばしゃりと音を立てて、大きめのたらい桶に溜めたお湯の中に腰まで浸かった私は身体を洗っていた。
この部屋に備え付けられていた物ではない。
ヒートに頼んで『錬成』してもらったものだ。
そもそも、風呂なんて完備されていなかった。
ボタ山に含まれる黄鉄鉱で錬成した『愚者の金』と言う『ニセモノの黄金』で代金を支払った私は、少し休める場所はないかとアナグマの店主に聞いた。
すると、ちょうど料理屋の二階に空き部屋があるから、良かったら使ってくれと言われた。
そこが売春宿も兼ねていたことに、後で気づいた。
__いや、だって両隣から男女の乱れた息とベッドの軋む音が聞こえて来たから……。
敷き詰めた藁の上にシーツを被せただけのベッドと窓しかない、粗末な部屋だった。
カーテンなんてはあるはずもなく、しかもガラス窓でもない。単純に窓枠と鎧戸しかない。
湿度を逃すために開け放たれた窓から、ひんやりとした夜気と青い月光が遠慮もなく差し込み、入り込んでくる。
「……あなた、サラマンダーじゃないでしょ?」
洗剤の代わりになる野草『ムクジロ』の果皮を砕いて綿袋に入れた石鹸で身体を擦りながら、私は言った。
『いや? ボクはサラマンダーだよ。ただ、あの錬金術師に色々と合成させられてね。火以外に『木・土・金・水』の属性も使えるようになったんだ』
私の服を燃やしながら、ヒートは応えた。
サラマンダーも火鼠も、普通の洗濯では汚れが落ちない。燃やすことで汚れを落とすのだ。
ちなみに、このたらい桶に入ったお湯も、ヒートが自らの身体から滲ませるように生成させた水を、火の熱を使って沸かしたものである。
「ふぅん……」
サイカチという豆科の野草の鞘を干して乾燥させて作った洗剤で頭を泡まみれにさせながら、
「……ねえ。私たちを造ったあの錬金術師のお爺さんって……何者なの?」
私は聞いた。
冷静に考えて、私の右目に埋め込まれた『赤きティントゥクラ』__つまり『賢者の石』を作れるのだから、かなり腕の立つ人物だと思う。
__ホントーにあのお爺さんが作ったのなら、の話だ。
『さあ? ボクもよくは判らないんだ。でも__』
衣服を洗い終わったヒートは、言葉を続ける。
『これだけは言える。アイツは生命を平気で弄ぶ、クソヤロウさ』
表情も口調も淡々としていたが、明らかにそこには憎悪が込められていた。
「そ、そう……」
それしか、私は答えられなかった。
泡を洗い流した私は、たらい桶から出る。
ヤママユガとウスタビガの繭を茹で、紡いだ糸を『錬成』したタオルで身体を拭き、髪をヒートの熱で乾かす。
__今日一日で色々とありすぎて、さすがに疲れた。
ベッドに横になると、すぐに睡魔が襲ってきて、私はそのまま瞼を閉じて意識を手放した__




