第十話『夜明け前に地図を睨んで私だけの道を選んで』
ごとり、と石の蓋をずらして、地上へ顔を出す。
同時に、淡いオレンジ色に輝くヒートが、先行して外に出る。
__よ、よーやく出られた……!
辺りは、すっかり暗くなっていた。
地下墓地は街の下水施設と繋がっていて、そのぶん広くて迷路みたいに複雑だった。
迷いに迷って、同じ道を何度も通っていたからか、私は『オートマッピング』のスキルを獲得した。
コレは一度でも通ったことのある道を自動的に地図として作成するスキルで、同じくスキル『アイテム作成』と合わせる事で、脳内に広がるマップを『地図アイテム』として生成できる。
このスキルを使って、私は地上まで戻って来れた。
「__ふぅ」
安堵の息を吐きながら、私は斜めがけにしたショルダーバッグの位置を治す。
幸いなことに、カバンは無事だった。
用途がわからなかったのか、中身の素材も手付かずだ。
ただし、錬金術の道具も、それを使って加工した物や自転車も見当たらなかったので、昼間いた場所にあるか、売りにでも出されたのだろう。
一応、昼間いた場所からほど近い場所には出たが__
半ば祈るように、私はヒートに照らされた路地裏へと入っていく。
「……あ。良かった、残ってた!」
道具一式と自転車も、そして加工したアイテムも、そのまま残っていた。
安心した途端、一気に空腹感と疲労感が襲ってきた。
『お腹空いたね』
肩に留まるヒートも、どこか元気がない。
「……食べ物屋さんって、まだやってるのかな?」
散らばった道具やアイテムをカバンに仕舞いながら、私は呟いた。
『さあ、どうだろう? でも、街には灯りがついてるところが結構あるから、まだやってるんじゃないかな?』
マウンテンバイクを押しながら、私は路地裏を出る。
料理屋は、広場に面した一角にあった。
「……うわ……」
料理屋に入った途端。小さく声を上げた私は、思わずローブコートのフードを目深に被って、顔が見えないようにした。
西部劇に出てくるようなスイングドアを開けた先に広がる店内は薄暗く、騒めきと気の抜けたアルコールと安タバコの匂いが充満している。
大して広い店ではない。カウンターと、あとは丸テーブルが五つほど、ランダムに置かれているだけだ。
獣油のランプの薄暗い灯りに照らされて、客の数もざっと二十人ほどといったところか。
「ご注文は?」
たまたま空いていたカウンター席に座った私に、店主らしい男が聞いてくる。
「あ、えっと……」
壁にかかったメニューボードを見ようと顔を上げた私は、そこで初めて店主がアナグマの獣人である事に気づいた。
同時に、文字を目にした私は、生来スキル【言語翻訳機能】が発動する。
字幕映画で出てくるみたいに、見たこともない異世界の文字で書かれたメニューボードの下に、翻訳された文字が表示されたウィンドウが出てくる。
「……く、黒パンとカブのスープ、あと、串焼き」
最低額の料理を注文する。
「飲み物は?」
エールとか酒類が圧倒的に多い中で__
「コ、ココア……」
唯一、見慣れた飲み物を注文した。
『あと生姜湯』
「あと生姜湯」
あいよ、と言って、アナグマの店主はカウンターの奥へ引っ込んだ。
しばらくして出された黒パンは硬い上にモソモソしてたし、スープも味がしなかった。
でも、串焼きとココアは美味しかった__




