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サートとセカンが正式に脱退したんだが

冒険者ギルドに戻ったセカンは、ラステにサート発見の報告・・・ではなく。

「は?!お前も抜けたいって?」

脱退の挨拶をしていた。さすがに若い2人とは違って、後足で砂をかけて逃げ出すのははばかられたからだ。

「お前、いくら借金があるのかわかってんのか!」

「返す当てが付きました。今から全額返済します」

「今からって・・・あ、さてはどっかの図書館で希少本でもちょろまかしたな?」

「ギルド受付に行けばわかることです」

全てを説明するのではなく、本題を隠したまま話を進めること。ラステが一番激昂する話し方だ。

「ふむう・・・ちと話が違ってきましたな」

「ファスタ殿もご心配なく。すぐ済みますから」

セカンを先頭に、ギルドの受付に移動する。そこにはスタット、フォイ、サートがいた。

「あ!お前ら!」

「先にこちらの借金をお返ししたいので後にしてもらえませんか」

ラステに話をさせるのではなく、一方的に通告する形で進めたいセカンは話をぶった切った。

「すみません、脱退申請書をお願いします」

「やはり、脱退されるのですね・・・」

「そういうことになりました」

提出した書類を処理してもらう間に、セカンはサートに記入漏れのある脱退申請書を返した。

「あれ?私これ出したはずだけどな・・・」

「不備があって返却されていたわ。ほらここ、今日の日付がない」

「あ、本当ですね。いけないいけない」

「それで、申請書を出すのをちょっと待ってほしいんだけどいいかしら」

「え?何でですか?」

「それがね・・・【星と雷】の資産状況だと、退職金は2人分しか出せないのよ。1人分はフォイが持って行っちゃったから、あと1人分。今私が出した申請書の分で最後なの」

「ええー!ちょっとセカンさん、それはひどいですよ!」

自分の分の退職金が消えてなくなったと聞いてセカンに食って掛かるサート。そして、退職金のことをすっかり見落としていたフォイが、どうやら今さら金額を気にし始めたようだ。

「まあまあ、落ち着いて。私が2番目になると3人分出るから」

「はー?わけわかりませんけどー?」

「つかお前ら、何勝手に退職金の話なんか進めてやがんだ!」

ラステが割り込んできた。

「俺の金だぞ、【星と雷】の資産は!」

「いえ、パーティの資産です。あってますね?」

ラステの言い分をばっさり切り捨て、セカンはギルド職員に確認を取る。

「まあ、そうですね」

「というわけで、ギルド規定の退職金を頂いていきます。スタットの分については交渉の上での金額のようですが、私もフォイも交渉などしておりませんので」

「お前らに支払う金などない!」

「あ、今の発言を聞いていただけましたね?退職金についての交渉が決裂しましたが」

セカンは再びギルド職員に確認する。

「えーと、はい。交渉不調ということでセカンさんの申請に基づき調停いたします。ギルド規定の金額での退職金算出ですね」

リーダーが金額の交渉を拒否したため、自動的に規則通りの額面で算出されることになった。

「認められるかそんなもん!」

「では調停を拒否し裁決に持ちこみますか?」

調停というのは、トラブルが起きたときギルドから解決案を提示してもらうこと。裁決というのはギルドが規則に基づいて決定すること。要するに強制力の有無が違うのだが、調停の時点で規則に基づいた判断が行われている今回のケースでは裁決に持ち込んでも何ら結果は変わることがないだろう。ということをセカンが一言にまとめるとこうなる。

「時間の無駄ですね」

ばっさりだ。

「まあ・・・客観的に見てその通りかと」

「待てよ、セカンは俺に借金があるんだぞ、返すまで10年間は【星と雷】の専属国際司書として働くことになってんだ、そういう契約なんだぞ!」

「確かにその通りです。私は契約に基づき、借りたお金を返済するまで最長10年間は【星と雷】に所属しなければなりません。ところで、退職金の計算は終わりましたか?」

「あ、はい。終わりましたのでご確認ください」

ギルド職員から精算書類を受け取ったセカンは、金額の欄他をざっと点検。特に問題はない模様。

「では、頂いた退職金から借りたお金を返済しますね」

「・・・は?」

「それが終われば、【星と雷】に所属し続ける理由はなくなるわけですが」

「あ・・・あんが?」

ラステはぽかんと口を開けて奇声を発すると動かなくなった。

「私の口座から、【星と雷】の口座にこの額を振り込んでください」

「はい」

ギルド職員はセカンに見せられた金額を操作し、帳簿上のお金を動かす。

「振り込み終わりました」

「はい。ではリーダー、これにてお借りしたお金の返済は終わりましたので、私は脱退いたしますね」

「うっわ汚っ」

サートが遠慮なく思ったことを口にする。確かにこの取引にはひとつだけ問題がある。返済するまで脱退できない契約なのに、脱退して得た退職金で返済するというのでは順序がおかしいのだ。しかし、脱退した後返済するまでの間にラステがセカンを訴えなければ、この問題は表面化しない。訴える暇もなく返済を終えてしまえば、そのあとでラステがセカンを訴えたとしても「貸したお金を返してもらえて何が不満なんだ?つかもう借金なくなってるだろ」で終わりである。なので、反則ぎみのテクニックに対して汚いとケチをつけたサートはあながち間違ってはいない。そして。

「さて、サート、これで【星と雷】の資産はあなたの分の退職金を支払える程度には回復しましたよ」

「なーるほど・・・それで私が後になったわけだ」

2人分の退職金を支出したために3人目の退職金を支払えなくなった【星と雷】だが、セカンが借りていたお金を返済したことで資産が回復し、支払えるようになった。

「じゃあこれお願いします」

サートは遠慮なく脱退申請書を提出した。

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