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サートも脱走したんだが

「あいつ何つった?」

「契約書に問題があるって・・・」

「お待ちください、今更そんなことを言われても困りますな」

「あー、いやいや。フォイが勝手に言ってるだけだし・・・おいセカン、これ何かまずいこととか書いてないよな?」

ラステは契約書をセカンに回す。国際司書は法務官ではないが、文字の扱いに一番詳しいと言ってよいのはセカンだからだ。年長者でもあり、参考意見を求めるなら適任だろう。

「あ、私ちょっとフォイ探してくる」

サートが立ち上がり、部屋を出ていった。

「さっきから思っていましたが、随分とあっさりした内容ですよね」

ひととおりざっと読み終えたセカンは、契約書をそう評価した。

「無駄のない明快な内容だろう?」

契約違反時のペナルティや、条件変更の手続きなどを全て省略しているのだから薄っぺらくて当然だ。ちょっと読んだだけでセカンもそのぐらいは思いつく。

「いろいろと足りない気はしますが、一目見ていきなり飛び出していくほどまずい内容とは思えませんね」

「てことは、何だ?フォイのやつ、何をあんなに慌ててたんだ?さっぱりわかんねーぞ」

「ふむう・・・吾輩の加入が嫌だったというわけでもありますまいな」

「それならお前を紹介した瞬間に逃げ出しているだろう。お、サートが戻って来たか」

かなり急いで戻ってきている足音だ。もちろん斥候任務中のサートならこんな音は立てない。

「リーダー、大変!フォイがいなくなった!」

「いなくなったから探しに行ったんだろ?」

「そうじゃなくて!ギルドスタッフに聞いたら、ついさっき脱退手続きをしていったって!」

「はぁ?!」

驚き半分怒り半分でラステは勢い良く立ち上がる。

「どういうことだ!あいつ、何がそんなに気に入らないってんだ!」

「わかんないよそんなの!職員さんの話だと、とにかくすごく急いでたって・・・」

「あー・・・ああー・・・!何やってやがんだあいつは!サート、フォイを探して連れ戻せ!」

「わかった!」

サートはすぐさま身をひるがえし、再び部屋を出て行った。人探しならサートの得意分野だ。

「・・・わっけわかんねー・・・」

ラステはそう吐き捨てると、また座り込んだ。

「あの子、契約内容にこだわっていたみたいだけど・・・それだけが理由かしら?」

「ねーよな・・・まさか、スタットに惚れてやがったか?」

「それはないでしょう」

「ねーよな」


フォイを探すためにギルドを飛び出したサートは、まさかフォイがスタットと行動を共にしているとは思わなかったためにフォイが単独行動したと仮定して捜索範囲を絞っていた。

(とにかくフォイを見つけないと、誰が古代文字を解読してくれるっていうのよ!)

【星と雷】の中で唯一古代文字を自由に読み書きできるのがフォイだ。セカンもある程度できなくはないが、フォイの能力を日常英会話レベルとするとセカンはアルファベットをいくつか書けますというレベルでしかない。

【星と雷】では、まずラステがギルドなどの情報から行き先を決めていた。セカンが先に目的地に向かい、現地図書館を利用して近辺の古代遺跡やダンジョンの情報を集める。国際司書であるからタイトルこそ読めるものの、その内容についてまでは理解しきれない。古代の財宝について記されていると思われる図書をピックアップしたころに後続メンバーが到着するのが理想的で、たいてうまくいっていた。その図書をフォイが現代語に翻訳するが、内容は暗号や謎解きになっている。フォイは古代語を読めるし理解できるが、暗号の解読まではできない。ここからはサートの仕事で、現代語に訳された謎掛けを解き財宝の内訳やありかを特定、さらにダンジョンに先行突入して確認と裏付けを取る。その情報を元にラステとフォイがダンジョン攻略を進めるにあたって先導を務め、スタットがその後ろについていく・・・というのが定番の流れだった。

(フォイなしじゃダンジョンの攻略が進まない・・・私も商売あがったりよ!・・・ん?)

サートはふと何かに気が付いて足を止めた。

(ああ、そうか・・・そういえば)


「まあとりあえず、明日から今後のことを考えようと思うんだけど」

「うん」

「今日のところはとりあえず宿に泊まろう」

「別の部屋で」

「・・・別の部屋ね、うん」

【星と雷】の定宿は使えないから、別のところを探さないといけない。ひとりなら野宿でもいいと思っていたが、フォイもいっしょとなるとそういうわけにもいかない。いっそ別の町へ移動するか、と考えていたそのとき。

「あー!フォイ見つけた!」

声に振り向くと、ちょうど建物の屋根から飛び降りたところらしいサート。

(さすが斥候!こんなに早く見つかるとは!)

スタットは当然サートから逃げ切る方法などないが、フォイは素早く煙幕魔法の詠唱を開始していた。

「わわ!ちょっとタイム!撃ち方やめ!」

フォイの詠唱はあとワンフレーズというところで中断された。サートの様子が明らかに自分たちの追撃ではなかったからだ。全く害意を見せることなく普通に歩み寄ってくる。

「私も辞めてきた」

「やめ?・・・何を」

断っておくがコピペではない。

「【星と雷】」

「・・・サートも辞めたのか」

フォイは中断していた詠唱をキャンセルし、魔法の発動を中止した。

「何でサートまで辞める必要があったんだ?」

「だってさ、考えてもみてよ」

フォイが訳した古文書を解読するのがサートの役目である。フォイがいなくなると、セカンが見つけてきた古文書をサートが直接解読しないといけなくなるのだ。そしてあいにくサートは暗号や謎解きに必要な直観力は優れているが、古代文字が読めない。そもそも古文書の入手が困難になるという難点はあるものの、それなりの対価を支払えば入手可能であり、不可能になるわけではない。

「じゃあ【星と雷】にいる意味ないよねーって思って」

「行動速いな」

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