フォイが脱走したんだが
「さて、手持ち資金はわずかだし金になりそうな装備品もないし、こりゃ困ったな」
冒険者ギルドに戻れば依頼文が掲示されていて、この中から適当なものを選んでこなせば日々の食事には困らないだろう。ごく初心者向けのものであればスタットにもこなせるはずだったが、今すぐ回れ右して戻ると【星と雷】メンバーに鉢合わせることになる。これは避けたかった。
「明日から働こう」
ニートのような言葉をつぶやいて、今日のところは市街地から外れたところで路上野宿することにした。その時。
「スタット!」
スタットを呼び止める声。聞き覚えがあった。
「フォイ?どうしたんだ?」
スタットを探して走ってきた風であったが、ついさっき別れたばかりのはずだ。用件に心当たりはない。立ち止まったスタットとの距離を詰めたフォイはこう言った。
「私も辞めてきた」
「やめ?何を?」
「【星と雷】」
なんだっけそれ、と思い出すのに時間がかかったのはスタットにとって全くの想定外の答えであったからだ。
「・・・え?」
思い出してもなお反応が鈍い。それほどの想定外であった。
「もうあそこにはいたくない」
「それって」
俺のことが好き・・・だとか・・・?という期待を持ちつつ言葉の続きを待つ。
「スタットがいなくなったら、次の荷物持ちは私だから」
「・・・あー・・・」
納得できてしまった。都合がよすぎる想像がまるで的外れだったと知り、急に恥ずかしくなるスタット。
スタットが去り、ファスタが戻って来たところでラステは改めて新生【星と雷】の活動開始を宣言した。
「ラステ、質問」
「何だ?」
そこにフォイが質問を投げかける。
「ファスタとはどのような契約を締結したのか教えてほしい」
「ああ、そりゃシンプルだ。戦闘時に俺の補助をすること。ただそれだけだ」
「他には?」
「何も。それで充分だろ、ファスタ」
「いかにも」
「戦闘以外の業務は何も任せない?」
「そりゃそうだ、戦いに集中してもらいたいからな」
ここまで確認して、フォイは理解した。
セカンは国際司書であって冒険者ではない。旅に同行はするものの、ダンジョン突入時には常に留守番だった。全くの非戦闘員であるから足手まといなのはもちろんだが、それ以上に失うわけにはいかない存在でもあるという理由が大きかった。したがって、ダンジョンでの荷物持ちを任されるはずもない。
サートは斥候役であり、軽装備による機動力と潜入調査が役目だ。少しでも持ち物を減らしておくことが重要であり、荷物持ちを任されるはずもない。
ラステは自分がリーダーであり司令塔なのだからと、荷物を持つはずがない。ファスタの契約内容は今聞いたが、荷物持ちを任せる予定はないようだ。となると、消去法で自分が荷物持ちになるではないか。
スタットがいつも自分の背丈よりも大きい背嚢いっぱいにダンジョンの戦利品を詰め込んで運んでいる様子をフォイも見てきている。あれを今度は自分が背負うことになるのだとフォイは理解した。
「契約書を見るか?」
ラステが差し出した契約書を受け取ったフォイは隅々まで読み、内容を確認する。そして間違いなくファスタが荷物持ちではないことを確信した。
「読んだ」
と言って契約書をラステに返す。
「何か問題があったか?」
「あった。だからさよなら」
魔法使いの証である杖をひっつかみ、そのまま全速力で部屋を飛び出す。
「・・・あ?何だって?」
ラステもセカンもサートも、ファスタさえフォイの素早い行動に頭が追い付かず、結果的に黙って見送ることになった。フォイはそのままギルドのカウンターに向かい、パーティ脱退に必要な書類を用意してもらう。必要事項を殴り書きし、カウンター職員に投げるように提出するとギルドを飛び出し、スタットを追う。追いつかれて脱退理由を問いただされたら隠し通す自信はない。幸い、突拍子もないフォイの行動に困惑する一同のフリーズが解ける前に、フォイはギルドを離れることができた。
「ふぉいうふぁんひへ(というわけで)」
「脱出できたわけだな」
脱退の経緯を、歩き食いしながら説明するフォイ。
「となると、新しい荷物持ちは誰に?」
「ひははひ(知らない)」
「・・・まあ、誰かに適当に押し付けるだろうな。ラステなら」