古代メソポタミア詩『ハンムラビ王讃歌』
世界の神話伝説や歴史を題材にした詩、まさかまさかの第14弾。今回は古代メソポタミアを統一したバビロン第1王朝の王、「目には目を、歯には歯を」という言葉で知られるハンムラビ法典をつくったハンムラビ王を讃えます。このシリーズ、果たしてどこまで続くんでしょうか……?
二つの大河ティグリスと ユーフラテスに挟まれし、
肥沃な大地メソポタミア。
天空の神に大気の神、水の神、太陽神、
恋多き愛と美の女神、月の神――
気まぐれなる神々が 時に豊穣もたらし、時に大洪水を引き起こし、
ギルガメシュとエンキドゥ、二人の英雄数々の 冒険繰り広げたる神話の舞台。
シュメール人が文明築き、アッカド人やアムル人——
異なる言葉を話す民 度々侵入したる かの沃土、
大麦小麦豊かに実り、瀝青産するかの沃地。
そを一つに統べし偉大な御方、
日干し煉瓦の家立ち並び、高き城壁四方を囲む 大いなる都バビロンの主、
バビロニア王ハンムラビ。
御身が定めし法の数々、合わせて二百と八十二条。
御身それらの条文、楔形の文字をもて、黒き巨石に刻ませて、
「目には目を、歯には歯を」とて民草に、正義のあり方 示したり。
見よ! 黒き巨石の頂に 槌と鑿もて彫られしは
肩炎々と燃え立たせ、玉座に座したる太陽神、
輝けるシャマシュの御前に立ちて、王権授かるハンムラビ。
その下に延々刻まれし 楔形文字の条文こそは、
おおハンムラビ、御身がウル・ナンム王をはじめとし、
リピト・イシュタル王やエシュヌンナのダドゥシャ王――
メソポタミアの諸王が定めし法をば集め、とりまとめ、
つくらしめたる裁きの手引き。
民の罪や争い裁くとき、手本とするべき「法典」なり。
楔形文字もて淡々と 記されし王の裁きは時として、血生臭く 冷酷非情。
罪犯したる者の眼を潰し、咎人の歯や腕折ることもあり。
また、自由なる者と奴隷では、科される罰に違いあり、真に公平なりとは言い難し。
されど王が法をもて 弱き者を救い、守らんと、心砕きしこともまた確か。
奴隷といえども人の子なれば、傷負わされしときは相手より
せめて償いの銀をば受け取るべしと、気遣い示す条文もあり。
それゆえかハンムラビ、御身の偉業は讃えられ、伝えられたり、後の世まで。
さて一方、今の世見れば、こはいかに?
政を行いて、民を救い、守るべき者どもが、
法を守らず、正義に背き、悪をなすこと珍しからず。
「悪法もまた法なり」と、己を利する法をば次々定め、
また法の解釈捻じ曲げて、不正を働くことも少なからずや。
今日、学問の女神が館、博物館に置かれたる
ハンムラビの法典 見上げる者に頂の 神と王は問いかける。
法とは何か? 誰がためにあり、誰が守るべきものかと 無言のうちに――。