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何かが変わるその時

「ようやく見つけましたよ。何をしているんですか、アレックスさん」


 良く通る声と、外のにぎやかな楽器の音が静かなホールに飛び込んできた。

 逆光でよく見えなかったが……青い儀礼用のマントに身を包んだ勇者カイエンだ。


 ズカズカと酒場の中に入ってきたカイエンが俺の手を取る。

 

「こっちに来てください」

「ちょっとまってくれ、まだビールが」


 言おうとしたが俺の言葉を無視してカイエンが俺の手を引いた。そのまま風の行方亭の外に引っ張り出される。

 店の前には煌びやかに飾られた大型の馬車がとまっていてその上にはそれぞれに儀礼用の衣裳を着た3人の男女が乗っていた。

 剣聖カエデ、魔術導師ロキ、それと司教エステスだ。


「さあ、乗ってください」


 カイエンが有無を言わさずって感じで俺を馬車の上に押し上げる。


「あなたがアレックス?ふーん、あんまり強そうに見えないけど」


 見慣れない東方風の衣裳に身を包んだ、黒髪の美少女って感じのカエデが俺の顔を見てしれっという。

 まあ強くはないと思うからその評価は間違ってない。


「いや、人をみかけで判断してはならないよ。カエデ。

彼の鍛え方は……尋常ではない、分からないかな?」


 俺より年上って感じの長い銀髪に口髭のやせたローブ姿の男が俺を見透かすように眺めて、落ち着いた口調で言う。

 魔術導師ロキだ。若き勇者パーティの後見人役の大魔法使い。先代勇者のアストンがどうしてもと説得して引退したところを引っ張り出してきた。


「あなたがカイエンと私を助けてくださったと聞きました。有難うございます」


 エステスが頭を下げた。

 整えられた奇麗な黒色の髪に優し気でお嬢様然とした顔立ち、傷一つない白い肌。正体を知らなければ貴族が豪商の令嬢にしか見えない。冒険者だとは思わないだろう。


「いや、ちょっと待ってくれ」

「皆、聞いてくれ!この攻略は俺たちだけで成し遂げたわけじゃない。一人の冒険者が助けてくれたんだ。そう、ここにいるアレックスが!」


 勇者カイエンが高らかに叫んだ。

 どういうことだよって感じで回りがざわついて、視線が俺に集まる。


「あいつが??」

「どういうことだよ」

「ていうか、あいつ逃げたとか死んだとかそんな話じゃなかったか?」

「アレックス?B帯だろ」


 周りからひそひそと話し声が聞こえる。

 ……非常に気まずい。場違いにもほどがある。


「なぜこのアレックスがあんな深層にいたのか、僕にも分からない。

だが、事実として彼は逃げることができる状況で僕を助けてくれた。勇敢にも僕と共にノーライフキングに立ち向かってくれたんだ」


 カイエンが言って周りがどよめく。


「そして彼がいたからこそ勝てた。彼がいなければ僕はあそこで死んでいただろう。僕を称えてくれるなら、彼の勇気と強さも称えてくれ」


 そう言ってカイエンが俺の手を取って高く掲げてくれる。

 周りから大歓声が上がった……非常に気まずい、こんな展開は考えてもいなかった。


 人ごみの中に風の行方亭のマスターの唖然とした顔が見える。

 しばらくして歓声が静かになったところで。


「おい、チャールズ、あいつは逃げ出したとか言ってなかったか?」

「そうだ、ヒュドラが出てきたから一目散に逃げたとか言ってたよな」

「いや、待て、ちょっと待ってくれ」

「ギルドでもそういって手続してたはずだぞ」


 一角から聞きなれた声が聞こえてきた。

 どうやら人ごみの中にはチャールズ達がいたらしい。 


「まさか……お前ら、アレックスを……パーティメンバーを置き去りにしたのか?」

「冒険者としてはご法度だぞ!」

「ちょっと待ってくれ……誤解だ」

「何が誤解なんだ!」

「どういことだ、説明しろ!」

「ていうか、ギルドに虚偽の報告をしたのか?ヤベェぞ」


 カイエン達がよく分からないって感じで顔を見合わせていて、ロキだけは何かを察したように苦笑いをしていた。


 ◆

 

 予期せぬ騒動になったまま、その後は馬車に乗せられたまま街中を引き回された。

 カイエン達は慣れたもんだって感じで皆に手を振っていたが……勇者パーティはこのくらい慣れっこなのか。


 だが俺にとってはどうも所在が無い感じだった。

 大勢の視線を集め歓声を浴びるなんて、こんなシチュエーションは40年弱生きてきて俺に人生で一度も無かった。 


 その後はアルフェリズ一番の宿の一番いい部屋、ワンフロアぶち抜きの広い部屋に連れて行かれた。

 部屋は見たことも無い豪華な丁度品が並んでいて、テーブルの上は料理が並んでいる。

 そこで豪華な食事を頂いた。


 アルフェリズを統治する貴族ヴァーレリアス家の当主や冒険者ギルドのギルドマスターとかお偉方だらけの中、俺一人が普段着のままでしかもB帯の冒険者だ。

 晒しものかこれは、とも思ったが、カイエンが気遣ってくれて助かった。


 ただ、料理も酒も抜群に美味かった。

 帰りの馬車まで手配してもらって風の行方に戻って、好奇心丸出しのマスターの質問を遮りその日は寝た。



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