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これからのこと

 激戦の末にノーライフキングは倒せた。

 ノーライフキングに囚われていたエステスも無事だ。魔力を吸い取られて気絶しているが。

 後ろで倒れているカエデとロキも、蘇生の儀式をすれば復活できるだろう。


 さっきまでの重苦しい地の底のような空気は消えて、単なる建物の中って感じになっている。ダンジョンマスターが死んだからだろう。

 勇者カイエンがため息をついた

 

「助かりました。名を聞かせてもらえますか?」 

「アレックスです」


 魔力をほぼ使い切って体が岩のように重い。返事するのも億劫なくらいだ。


「あなたは勇者じゃないのですか?」

「ええ」


「ではなぜ竜剣術を使えるんです?あれは勇者クラスのユニークスキルのはずですけど」


 クラスは神に与えられた祝福のことを言う。勇者とか賢者、司教、剣聖とかいろいろある。

 俺は魔法戦士だ。魔法と剣技の両方の祝福を受ける所有者が多いクラス。

 よく言えば何でもできる万能型、悪く言えば器用貧乏。

 

 そして、ユニークスキルは個人の素質により持っている能力だ。

 竜剣術は勇者クラスの人間だけが持っているユニークスキル。勿論俺は使えない。


 俺が竜剣術を使えたのは俺自身のユニークスキルによるものだ。

 とはいえ、この話は話せば長くなる。


「でも、それは後にしましょう。地上に戻ってから」


 俺の言わんとしてることを察してくれたのか、カイエンが脱出のスクロールを取り出した


◆ 


 あの戦いから3日が経った。


 ダンジョンの入り口まで戻ってきて、勇者カイエン達は其処で待っていた衛兵や街のお偉いさんに取り囲まれていた。

 ダンジョンマスターを倒したことを告げて歓喜の中でカイエンたちがもみくちゃにされ、負傷したエステスたちが治療院や神殿に運ばれる大混乱の中、俺はとりあえずその場を離れた。


 魔力回復のポーションを飲んで定宿にしている風の行方亭で2日間寝続けた。

 何度もノーライフキングとの戦いの場面がフラッシュバックして目が覚めたが。


 自分が魔法で焼き尽くされる夢、死の指先に触れられて硬直する夢、一緒に戦っていたカイエンが倒されて一人であいつと対峙する夢。

 我ながら良く生きてたもんだ。


 3日めにはようやく起きることができるようになって、一階の酒場に降りた。

 出された温かいシチューを飲み、ビールを飲むとようやく生の実感がわいた。


 生きて帰ってこれてよかった。

 あいつらから置き去りにされたとき、ノーライフキングと向かい合った時、確実に死んだと思ったが。


「良く生きてたなぁ。アレックス。あいつら、お前は逃げたから仕方なくって言ってたぞ。お前は死んだって言ってたからな。生きててよかったぜ」


 誰もいないホールでマスターがしみじみと言ってくれる。


「俺が逃げたのは嘘だ。其処ははっきりしておきたい」


 逃げたと言われるのは心外だし事実ではない。

 だが、俺が死ぬと思ったのは客観的に見れば妥当だと思う。あの状況なら普通は確実に死ぬ。


 改めてあのときのことを思い出す。

 たまたま勇者カイエンと会っていなければ、一人でダンジョンの奥に取り残されたら生還は不可能だっただろう。

 

 冒険者は一度組んだパーティからメンバーを追い出すのはいい顔をされない。

 ころころとパーティメンバーを入れ替えるリーダーは信頼されない。それに、いつ切られるか分からないパーティのために命を懸ける奴はいない。


 そして、コロコロとパーティを移動する奴は尻軽と言われてこれまた信頼されない。

 こんな建前があるから、ダンジョンの中で役立たずを切り捨てて、逃げたとか死んだってことにするのは時々聞く話だ。


 今回のことは丁度良かったんだろう。

 当事者になってみるとやり切れない気分にはなるが。


 もう一口、酸味のあるシチューを飲んだところで、ようやく外から聞こえる音に気付いた。

 ドアの外からは賑やかな声と拍手、楽器の音と花火の揚がる音が聞こえてくる。


「随分にぎやかだな」

「知ってるだろ?勇者カイエン達がダンジョンを討伐したからな。今日は祝賀会さ。

魔術導師ロキと剣聖カエデも倒されて危ない所だったらしいが、さすが勇者様だな」


 マスターがビールを継ぎ足してくれながら言う


「……その二人はどうなったんだ?」

「ああ、蘇生の儀式が成功したんだってよ。無事に復活できたらしいぜ」


 そうか。それは良かった。

 蘇生の儀式は死んだ後の時間が短ければ短いほど成功しやすい。

 あの戦闘が終わってすぐに地上に戻って蘇生の儀式をしたんならまず問題ないはずだが。


 それでも神でも避けえぬ不幸な偶然による失敗はあり得る。

 そんなことにならなくてよかったな。


「ともあれ生きててよかったよ。死んで花実が咲くものか、生きてこそだぜ、アレックス」


 マスターが励ましてくれるが……

 生き延びたのは確かに幸運だった。だが、俺はしがないB帯の冒険者だ。今更新メンバーを探しても、受け入れてもらえるだろうか。


 と言うか、もっと事態は深刻な気がする。

 そもそもチャールズ達が俺を死んだと報告していたら、俺はギルドから登録を削除されているはずだ。

 再登録には手間が掛かるし、俺が逃げたってことになっていれば再登録が通るかは怪しい。 


 通っても、ダンジョンで怯えて逃げたというのは冒険者にとっては最悪の評判だ。

 そんな俺が加入できるパーティがあるのか。

 冒険者はパーティを組まないとダンジョンに潜れない。冒険者が一人でやれることは少ない。


 口に含んだビールが妙に苦い気がした。廃業して何処か田舎に引っ込んで剣術でも教えるか。

 そんなことを思っていたところで、ドアが不意に空いた。


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