6章 懐かしさと未来 ミズキ編
どこかの家の食卓。
アジの開き、ほうれん草のおひたし、おしんこ。
間違いない、祖母の家だ。
母を早くに亡くした私は、父と姉と共に祖母の家にお世話になっていた。
父が朝早く出掛けるため、朝食は祖母が用意してくれていた。
祖母は料理が上手で、味噌汁が抜群のバランスの味だった。
なめこの味噌汁、味噌汁はこれが好きだった。
「ミズキ、しっかりお食べ。」
にこにこしながら、側には祖母がいた。
そうだ、私もいつか祖母のように料理が上手で温かい家庭が築ける奥さんになりたいな~と思ったな。
それから、私が19歳になるときに祖母は亡くなった。
「美味しい味噌汁、また作って上げるよ」それが、祖母が最後に告げてくれた言葉だった。
葬儀が済み、1年後
今の会社に就職が決まり
私はあの家を出た。
5歳上の姉は結婚し、地方に引っ越していった。
父は地元のアパートに引っ越ししたため、あの家は誰も住んでない。
以前、姉と再会したときに
なめこの味噌汁を作ってくれたが、婆ちゃんのとは違ったんだよね。
私が彼と結婚出来なかったのも、どこかで彼とは温かい家庭が想像出来なかったせいかもね?
ふと、そんなことを思いながら
目を開けると
景色がまた変わっていた。
そこには「未来の私」がいた。
私の側には
男の子と女の子の子供。
食卓には私が夫に用意した食事と祖母に教えてもらったなめこの味噌汁。
彼が1口すする。
「美味しいよ。いつもありがとう。」
私は「なぁに。味噌汁一杯で。」とコロコロと笑う。
お椀を持った彼の顔が見えた。