4章 懐かしさと未来 トモキ編
テーブルの上には焼き鮭、卵焼き、漬け物、ご飯。
その向こうには台所があり、
1人の女性の姿が見える。
母だ。
間違いない!母の後ろ姿だ。
5年前に亡くなった母が振り替える。
「ほら。早く食べて学校行かないと」
「え?学校?」
何を言ってと言いかけガラス窓に映る自分に驚く。
僕は学生に戻っていた。
まばたきを繰り返すが、幻ではないらしい。
今は亡き母が近付きながら微笑む
「食欲ない?大丈夫?」
「いや、大丈夫だよ。母さん」
そう言って、何の違和感もなく食事を再開した。
食事を終えた僕は、母に見送られ家を出る。
と、また景色は一変する。
母の葬儀の場面だ。
妹は泣きじゃくっていた。
僕は母の遺影を呆然と見ていた。
母は癌だった。気付いた時には手遅れだった。
そうだ......あの日だ。
あの日から家庭から温かさ消えてしまったんだ。
母さんの味噌汁。なめこの味噌汁。
他の味噌汁も旨かったが、なめこがダントツだった。
妹が何度か作ってくれたが、やっぱりあの味には到達出来なかった。
あれから僕は東京の会社に受かり
家を出た。
実家にたまに帰ってはいたが、父さんはすっかり老け込み、近所のおばさんがたまに食事を運んでくれていたらしい。
それから3年後。父さんも亡くなった。母さんが亡くなったのがやはり原因だったのか、庭先で母の好きだった花を世話してる時に、倒れそのまま逝ってしまった。
妹は幼馴染みと結婚して上京し、あの家は誰も住んでない。
僕が結婚に執着してないのも、母が亡くなったのが原因で温かな家庭を失うのが怖いからかもな。
目を閉じ納得し、目を開くと。
場面はまたとある家庭の風景。
違うのは「未来の僕」がいた。
女の子と男の子の子供。
側には女性が1人。
テーブルには温かい食事。
温かい味噌汁。なめこの味噌汁。
1口すする。母のとは違うが、母に近い味。
「美味しいよ。いつもありがとう。」と僕。
「なぁに。味噌汁一杯で」とコロコロ笑う彼女の顔が見えた。