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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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天からの使い

「神様から遣わされての~。……うん、美味い茶じゃの」


お爺さんは悪びれることなくお茶を啜る。


ルークには事情を説明したが、依然として胡散臭そうな眼差しでお爺さんを睨みつけている。


「神様からのお使いですか?」


私が尋ねるとお爺さんは嬉しそうに頷いた。


「お前さんは良くやってくれた。期待以上だ。神様も大変喜んでな。ワシを遣わしたんじゃ」

「はぁ。それは…どうも。ありがとうございます」


なんで私が御礼を言うんだろう、と思いながらも頭を下げる。


ルークはしかめっ面をしてお爺さんを睨み続けるが、お爺さんは何処吹く風だ。


「神様は実奈…いやユリア嬢の努力にいたく感動されたようじゃ。非常に不利な状況に生まれ変わったのにも関わらず努力を続け逆境に打ち勝った。もちろん、運や人の助けもあったろう。しかし、運や人の助けがあったとしても、また、たとえ適性があったとしても、本人の努力や誠意が無ければ成功にはつながらない。ユリア嬢はよく頑張ったと思う」

「あ、ありがとうございます…」


褒め過ぎという気がするが、努力を認めてもらえたのは素直に嬉しい。


「願い事も私事には使わなかった。監禁されている間に自分のために使うのかと思ったが……。女王と正反対じゃな。女王は自業自得じゃ。国民を犠牲にして我が世の春などあるはずもない。ユリア嬢の願いは愛国心のある全ての国民を守ることだった。女王は結局国も国民も愛することはなかった。自分のことしか考えていなかった。…あの鏡と同じ…最後まで神様の言葉を理解することができなかったんじゃな…」


お爺さんは少し哀しそうに俯いた。


鏡との因縁…のようなものがあったのかもしれない。


しかし、お爺さんはそれを吹っ切るように顔を上げると言葉を続けた。


「そして、ユリア嬢の人のために役に立ちたいという気持ちは尊いものじゃ。その気持ちが精霊王の心を掴み、民衆の支持を得るに至った。辺境伯らの信頼を得ることができたのも、その誠実さのおかげじゃろう。飢饉や自然災害に備える智慧も存分に活かされた。おかげでこの世界の人類は救われた。適性だけで世界が救えるものではない」

「その通りだ!」


ルークが初めて瞳をキラキラさせてお爺さんの手を握り締めた。


「リアのことを良く分かっている。まったくその通りだ。リアの聡明さと誠実さは俺が一番良く分かっている。それでいて、可愛いんだ。可愛いって言うのは容姿だけのことじゃない。そりゃ容姿も驚くほど美しいが、ちょっとした仕草や話し方にも愛らしさが滲み出るし、特に笑顔の破壊力は……」

「ちょ、ちょっと、ルーク、もう止めて。恥ずかしいから…」


早口で捲し立てるルークの口を慌てて塞いだ。


お爺さんは苦笑いしながら顎を撫でている。


「まぁまぁ、さすが鴨涼介とそっくりだな」

「かも……? なんだ?」


ルークが怪訝な顔をしているので、仕方なく彼の前世は恋人の鴨涼介くんだったことを告白した。


多分ルークも嫌がらないでくれる……と思う。


恥ずかしいけど。


ルークは私の話を聞いて、激しく動揺した。


「俺が!? 俺が…リアの前世での恋人? …以前、前世で好きだった人が忘れられないって言っていたけど…それって前世の俺のことだったのか?」


信じられないという表情で詰め寄られて、私はコクコクと頷くことしかできなかった。


「なんで!? なんでそれをもっと早く言ってくれなかったんだ!? 俺たちが出会ったのは運命だったんだ!」

「だって…あなたの前世は私の恋人でした、なんて言われたら、怖くない?」

「怖くない! 嬉しい気持ちにしかならないよ! でも…俺には前世の記憶がないんだ。…寂しいな」


肩を落とすルーク。


お爺さんは話を元に戻すようにウォッホンと咳払いをした。


「その話は後で二人でしてくれ。ワシの用件はな。神様がユリア嬢の活躍に感動したので、何か褒美を与えたいと仰っているのだ」

「褒美…?」


私は呆気に取られた。


「えーと、私は褒美目当てに頑張ったわけではないので…」

「まぁ、お前さんならそう言うかもしれないと思ったが、神様が直々に願いを聞いてくれる機会はそうそうあるもんじゃない。願い事はまったくないのかい?」


願い事……?


こうだったらいいなって思うこと。


あ、そうだ!


「あの、この世界では性的少数者に対する偏見や差別が大きいと聞きました。前世の世界ではLGBTQAIと呼ばれていましたが……。そういった偏見や差別をなくすように神様にお願いできませんか?」


それを聞いてお爺さんが笑いだした。


「お前さんはいっつも他人のことばかりじゃな。まぁいい。そんなことだろうと思っていた。承知した。そのように神様に伝えよう」


笑顔のお爺さんの顔を見て、私もとても嬉しくなった。


良かった。これでティベリオも生きやすい世界になるかもしれない。


お爺さんは、その後すぐに別れを告げて天界に戻って行ったが、転移(?)して消える前に


「ワシからも後で贈り物をしよう」


と気になる一言を残していった。


お爺さんからの贈り物???


私の頭の中は再び疑問符で一杯になった。



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