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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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鏡の最期

*ユリウス視点です。


ラザルスの色鮮やかな鳥たちが猛スピードで俺たちを追いかけてくる。


弟がどのように鳥たちと意思疎通を図っているのかはまったく分からない。魔法のような力が働いているのかもしれない、と思う。


ただ、両者の間に絶対的な信頼関係があることだけは常に伝わってくる。


今回もラザルスが目で合図をしただけで、鳥たちは一斉に空に舞いあがり上空から巨大な魔獣を偵察しているようだ。ユリアによるとその魔獣の背にルキウスを操る魔法の鏡があるという。


魔獣の背は下からだと見えにくい。時折キラリと太陽を反射する光が見えるので、それが鏡だろうと思うのだが、なかなか狙いが定まらない。


矢をつがえて鏡を狙おうとしても、すぐに見えなくなってしまう。


動いている相手を射ることは得意だが、狙いが見えなくなると困難だ。なかなか射ることができずにいるとラザルスが叫んだ。


「兄さん。鳥だ。鳥たちは鏡を目掛けて飛んでいく。そこを狙って矢を打ち込んで!」

「でもそうしたら鳥たちは…?」

「大丈夫だ。矢が当たる寸前に逃げる。ユリアが矢に魔を砕く魔法をかけていた。兄さんならできる。自分を信じて。絶対に当たる!」


戦いの前にラザルスがあらゆる魔を打ち砕く破魔矢の話を聞かせてくれた。ユリアが教えてくれたそうだ。


ユリアは不思議だ。俺達の妹なのに、俺たちより遥かに大きな知識を持っている。


彼女を信じよう!


頭の中にユリア姿が浮かんだ。


自分の想いを全て矢に籠めて構えた。


もう少し…もう少し…。


集中…。


呼吸を整えて色とりどりの鳥たちの向かう先を狙う。周囲の喧噪がまったく聞こえなくなった。


一瞬、鏡がキラリと光った。


今だ!

ルキウス!無事でいてくれ!



俺は思い切って矢を放った。矢が真っ直ぐに飛んでいく。矢に付けられた羽根が淡く発光しているのが見えた。


どうか、当たってくれ!


こんなに真剣に祈るのは生まれて初めてだ。そう思った瞬間、何かがカシャンと割れる音が確かに聞こえた。


鏡が粉々に砕け、割れた破片が蜘蛛の巣のように空中に散らばった。一つ一つの欠片に光が反射してキラキラと飛び散る幻想的な光景に、戦場だということを忘れて思わず見惚れてしまった。


そして断末魔のような男の叫び声が聞こえた…ような気がした。


「…兄さん! やったよ!」


ラザルスの満面の笑顔を見て俺は我に返った。


「ルークは!? ルークは無事か?!」


必死に叫んで後ろを振り返る。


俺たちは敵陣のど真ん中でオルグ兵に囲まれていたが、ラザルスや優秀な騎士らが俺が矢をつがえる間ずっと守り続けてくれていた。


慌てて自分も戦闘に加わるが魔物たちは攻撃の手を休めない。


「くっ…きりがない…」


せっかく鏡を壊したのにこのままだと討ち死にだ……。


俺は焦っていた。


その時、辺境伯軍が戦闘している付近から強い光が発せられた。その光は辺り一帯に広がっていく。


凄い…。なんだこの光は…?


ルキウスがいる辺りから発せられたようだが……。何かあったのか?


鏡が壊れたからルキウスが元に戻った……とか?


しかしそれで光が発生するか? なんだ? 何が起こった?


混乱した頭を整理させながら襲ってくる敵を切り伏せていると、オルグ兵たちが突如ざわつきはじめた。怯えたようにじっとして周囲の様子を伺っている。


魔獣たちも動かなくなる。先ほどまでの喧噪が嘘のように静まりかえった。


な…何が起こった…?


突然静かになった戦場で、金切り声を上げているのは女王のみ。


「お前たち! なんじゃ! 何故戦いを止める!? 敵を倒せ! 殺戮も蹂躙もし放題だと約束しただろう!!!」


女王は飛び回る魔獣に乗っているが何が起こったのか彼女も分かっていないようだ。


強い光が起こった辺りをよく見ると、戦場には場違いな豪奢なドレスを着た女性が立っていた。


あれは…………モナ…。


周辺の魔物たちは恐れを籠めた目でモナを見つめている。魔には魔が判るのだろう。特に力の強い悪魔のことは……。


すると、突如としてモナが変化した。


……アモンだ。


いや…あれは本当にアモンか?


俺が知っているアモンは、真っ白い髪に褐色の肌。空色の瞳で紳士のような服装をしていた。


しかし、今のアモンは…確かに真っ白い髪に褐色の肌だが…。両眼は燃えるような赤だ。そして、背中には大きな黒い翼がある。鳥の羽根ではない。コウモリのような大きな翼だ。服ではなく古代の人々が使っていたような革を身に纏っている。


手に握っているのは大きな鎌だ。死神が使うような……。


表情は…微笑み…いや…嗤っている。その顔が堪らなく恐ろしい…。


これが…悪魔の本性なのだ。俺は背中を冷たい汗がツーっと流れるのを感じた。


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