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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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鏡の焦慮

*鏡視点です。



ああ、何もかも上手くいかない。


私の苛立ちは最高潮に達している。


何故思うように事が進まないのか?


やはり、あの聖女が原因か?


私は積極的に聖女誘拐の計画を立てた。彼女の魔力も理由の一つだが、聖女を王都に捕えておけば、あのルキウスとかいう騎士が王都に救出にやってくるのでは、という計算もあった。


一旦聖女を王都に捕えてしまえば、後はこちらの思うようになる。聖女が王都に戻ってきたという評判が広まればルキウスが王都に助けに現れるだろう、と踏んでいた。


奴がやってきたら上手く誘導して鏡を覗きこませ、ルキウスを意のままに操れるようにするつもりだった。


ルキウスが満たされない渇望を抱えているのは明白。


闇のような欲望を抱く者を操るのは簡単だ。


難しいのは欲の少ない人間だが、ほとんどの人間は欲深い。


ルキウスも簡単に操ることができるだろうと踏んでいた。


しかし、撒き餌となるはずの肝心の聖女がすぐに逃げ出してしまった。


王太子が逃がしたと聞いて衝撃を受けた。


あの、役立たずのろくでなしが?!


女王が狂乱状態で自分の息子を鞭打っていたが止める気にもならなかった。


あの王太子が人を助けるなんて誰が想像しただろうか?


王太子には人望がない。現に王太子が監禁されても、彼を庇おうとしたのはカントル宰相だけだった。


カントル宰相は次期国王となる王太子を鍛える責任を感じていたようなので、その行動は当然だ。しかし他に王太子を救出しようという声はまるであがらなかった。


「クレメンスを助けようとする人間なんているはずないから、会話の制限はしなくても良かろう」


あの女王ですらそう言っていたくらいだ。


さすがに母親の情は多少あったのだろう。当初、王太子には魔力を搾り取る以外の制限はなかった。


だから腕輪を付けられて監禁されても食事は通常通りたっぷりと与えられていた。部屋も自室で過ごしていたし、あの聖女に比べたら各段に良い待遇を受けていたはずだ。


しかし、クレメンスが力づくで逃げ出そうとする出来事が続き、女王の怒りが爆発した。


屈強なクレメンスが逃げ出そうとする時に警備の兵士らが抑えることは難しい。曲がりなりにも王太子だ。さすがに手荒な真似はできない。


苛立った女王はクレメンスの食事の量を最低限にまで制限することを命じ、聖女が監禁されていた部屋に押し込めることにした。


自分の血を引く王太子に対する仕打ちに非難する声もあったが、女王はそれらを全て無視して強行した。


ガリガリに痩せてベッドに寝ているくらいしかできない状態だったから、女王も油断したのだろう。


聖女を逃がされて私の目論見は完全に外れた。


溜息が出る。


さらに我らと手を組んだはずのムア帝国で革命が起こり、あのジェラルドが現在国を運営しているという。


ジェラルドは我々を裏切り、もはや背後から辺境伯城を脅かす存在は無くなった。


自然災害も大きな影響を及ぼさなかったようだ。飢饉や蝗害で多くの領民が死ぬはずだったのに死者は出ず、町や村では自警団を組織できるほどの余力があるらしい。


こんな計算違いが偶然であり得るだろうか?


やはり、神とあの爺さんに変な知恵をつけられて、あの聖女はこの世界に転生したのかもしれない。くそっ!


ブルーノとかいう破落戸連中も行方不明になった。辺境伯領で何が起こっているのか情報も入らない。


私の苛立ちは止まらない。


鏡に閉じ込められて不便なのは自由に動けないことだ。


この城にいる限りルキウスを取りこんで自在に操ることは不可能。


仕方がない。鏡ごと戦場に行くしかなかろう……。


女王軍は魔物を中心とした編成だ。破落戸連中もいるが数が少なくほとんど戦力にはならない。戦場で怖気づいて逃げ出すのが関の山だと予想している。


魔物は、戦に勝利したら辺境伯領の人間を自由に襲っていいと言われて乗り気になっている。供給される魔力が減っているのに我慢しているのは辺境伯領を蹂躙できる楽しみがあるからだ。


決戦に向けてさらに多くの魔物が集まってきている。


女王の勝利の邪魔になるのは、あのルキウスだけだ。


しかし、奴には弱点がある。


あの男には私と同じ激しい渇望がある。


どれほど望んでも手に入れられないという渇望だ。


私と奴は共鳴できる。


そして、昏い欲望の隙をついて操ることができるだろう。


だが、そのために直接奴の顔を見なくてはならない。


この鏡を覗きこんだ時。


その時が勝負だ。奴の弱点を突いて、奴の体を思うままに操ってやる。


何とかあの騎士を虜にしなければ……。


私は策を考え続けた。




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