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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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疑惑

ユリウスが息を荒くするアルバーノさんの肩に手を置いて落ち着かせようとしている。


「……まず彼の話を最後まで聞いてみよう」


アルバーノさんは不満そうにしながらも渋々と腰を下ろした。


しかし敵意のこもった目でジェラルドを睨みつけている。私も驚いてジェラルドを見つめた。


「……クロエさんは悪人に捕まって人質としてずっと酷い目に遭っていたはずよ。彼女が裏切者なんてありえないわ」


私の言葉を聞いて、ティベリオたちがポカンと私を見つめた。その眼差しの意味が分からない。きょとんとする私にアルバーノさんの顔色が一層悪くなった。


ユリウスがゆっくりと口を開く。


「クロエはずっと俺たちと一緒にいる。誰にも捕まっていない。人質とは何の話だ?」


衝撃で言葉が出てこなかった。


……どういうこと? クロエさんは人質になっていたんじゃないの?


「誰かが嘘をついているということだな。人間らしい」


精霊王が皮肉っぽく言葉を挟む。


「ガイウスが女王派なのは周知の事実だった。だから奴は聖女には近づけない。そうだろう?」


ジェラルドの言葉に全員が頷いた。


……そうだったんだ。道理でガイウス師団長とは顔を合わせなかったわけだ。密かに守ってもらってたのね。


「だからガイウスは城で働く侍女たちに目をつけた。中でも金に目が眩むような女を狙え、と指示が出されたと聞いている」


話が嫌な流れになってきた。ジェラルドの抑揚のない声を聞きながら不安になってアルバーノさんを見つめる。


ティベリオも心配そうだ。


小声で「アルバーノ、退室していいぞ」と囁いたのが聞こえたけど、アルバーノさんは頑なに首を横に振った。


ジェラルドは小さな溜息をついた。


「クロエという女は野心家で、金と名声が欲しい人間だった。買収して裏切らせるのは簡単だったそうだ」


ジェラルドによると、クロエさんはガイウス師団長の指示でアガタに毒を盛り代わりに私の侍女として視察旅行に行くことになったのだという。


「……あ、あの、俺と付き合い始めたのは、買収される前のこと……でしたか?」


震える声で尋ねるアルバーノさんの顔は真っ白になっている。


ジェラルドは辛そうにを伏せた。


「それは…分からない。彼女に直接聞いた方がいいと思う。すまない…」


「町の広場での騒ぎも計画されたものだった。クロエがわざとユリアを一人にした。彼女が一人になれば男たちが寄ってくるのは簡単に予想できる。それを俺が助けてユリアを誘惑する、という算段だった。そうすれば怖い護衛騎士殿が血相を変えてすっ飛んでくるだろうからな」


ジェラルドの説明にルークがふんっと鼻を鳴らした。


当然っ!と言わんばかりだ。


「俺たちの狙いはルキウスという護衛騎士を封じること。そして辺境伯を攫い護衛騎士の意識をそちらに逸らすことだった。あくまで目的は聖女誘拐。だから辺境伯を連れて転移した後、すぐに彼を薬で眠らせて解放した」


ユリウスが親指を噛みながら俯いて唸っている。悔しそうだ。こんなユリウスは初めて見る。


「教会の宿舎に戻ったユリアをクロエはすぐに神経毒で眠らせた。クロエは窓を内側から開けて俺を中に引き入れた。ユリアとクロエを連れて俺は別な場所に転移したんだ。クロエには一芝居打ってもらう必要があったからな。だが、彼女は夜のうちに教会に戻した。その後クロエがユリアのベッドで眠り、朝になったら悲鳴をあげて一芝居うった。ユリアが誘拐されたと嘘をついたんだ。実際は夜の間にユリアが消えたことなど誰も気がつかない。」

「くっ、あの時リアは既に誘拐されていたのか!」


ルークが悔しそうに唇を噛んだ。


あの時……?


怪訝な顔を向けると、ルークが泣きそうな表情でふわりと微笑んだ。切なそうなルークを見て私の胸も痛くなる。


「真夜中に戻ってきた時にリアの部屋に行ったんだ。無事かどうか顔を見たくて。でもクロエから眠っているから起こさないでくれ、って……。あの時無理にでも部屋に入って確認するんだった!」


笑みが消えた悔しそうな表情でルークは拳で机をダンっと叩く。


「一方で、お前たちの意識を王都に向けないために攪乱する必要があった。だからユリアのアクセサリーを破落戸に渡して王都とは反対の方向に落としておいた。あいつらは女王のお気に入りでな。女王の汚い仕事を専門にやっている。今回は一緒に仕事をせざるを得なかったが仲間ではない。奴らは精霊王の森にも行ったことがあるはずだ」


ジェラルドの視線が一瞬精霊王様に向いた。


精霊王様は少し身じろぎしただけで何も言わない。


「ブルーノとかいう奴等か?」


ユリウスの質問にジェラルドは頷いた。


え!? 聞いたことがある名前だと思ったらクロエさんの手首を捩じり上げていた悪人じゃないか!


「……クロエさんを人質にとった人たちでしょ?」


私の質問にジェラルドは呆れた顔をした。


「あのな、クロエもグルだったんだ。クロエは人質の振りをして、お前が逃げられないように演技しただけだ。一芝居打った後はすぐに教会に戻したよ」


………(汗)。


そうだったんだ。演技だとしたらあれは見事な演技だった。北〇マヤもびっくりの迫真の演技。


でも、本当にクロエさんが裏切ったのだとしたらアルバーノさんが気の毒すぎる…。


何か誤解があったんじゃないかな…? いろいろと逃げ道というか言い訳を考えたくなってしまう。


その時扉がバタンと開いて、騎士に捕縛されたガイウス師団長とクロエさんが入ってきた。



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