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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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裏切り

転移した先は辺境伯城の入口だった。警備兵たちが私たちの姿を見て目を丸くする。


「は?! ……せ、聖女さま?」

「はい。ただいま帰りました、とティベリオに伝えてくれる?」

「は、はい! ただいますぐに!」


警備兵の一人が駆け出した。


「…聖女さま、ご無事で何よりでございます」


残っている警備兵たちは涙を浮かべて喜んでくれた。


存在を無視された精霊王様が隣で憮然と腕を組んでいるので、私は慌てて精霊王様を紹介した。ジェラルドは我関せずという表情だ。


「大変なご無礼をお許しください。ようこそお越しくださいました。お待たせして誠に申し訳ありません」


精霊王様の重要性は皆が理解している。警備兵たちは慌てて頭を下げ丁重に跪いた。


彼の機嫌が少し直ったようなので内心ほっと息を吐く。


「リアっ‼」


その時、ルークが突然転移魔法で現れ私を強く抱きしめた。本当に実在しているのかを確かめるように手で何度も私の頭や背中を撫でる。


「…リア……無事で良かった…」


そして体を少し離すと私の顔をまじまじと覗きこむ。泣きそうな顔のルークを見ると切なくて胸が痛んだ。もちろん、再会できてすごく嬉しかったけど…。


ルークはやつれてどす黒く見えるくらい顔色が悪い。目の下に真っ黒なクマができている。何日もろくに眠れていないんじゃないかと思った。


ただ私を見る蒼い瞳は相変わらず綺麗で、そこから透明な涙がホロホロと零れ落ちた。


「ルーク、心配かけてごめんね。こんなにやつれて……」


ルークの頬に手を添えると大きく息をのむ音が聞こえた。


「いや……生きて戻ってきてくれただけで…もう」


再度強く抱きしめられて息が詰まりそうになる。


わらわらとティベリオやユリウスたちも姿を現した。


「ユリア! 無事で良かった!」


彼らもぎゅうぎゅうと私を抱きしめる輪に加わる。


嬉しいけど…苦しい…。


その時アルバーノさんが叫ぶ声が聞こえた。


「ジェラルド! 貴様、よくも!」


刹那、その場の人間の顔色が変わった。明らかな敵意がジェラルド一人に向けられており、ルークなんかは既に臨戦態勢に入っている。


「ま、待って! 待って! 話を聞いて! 事情があったの! 大切なお母さんを人質に取られて……。ジェラルドも私を助けてくれたのよ!」


ジェラルドを庇うようにみんなの前に立ちふさがるとルークが衝撃を受けたように顔を曇らせた。


「リア…どうして…? そんな奴を庇うのか?」


しかし、ここで引くわけにはいかない。


今、戦うべきはジェラルドではないし精霊王様も大切な話があるからわざわざやって来たのだろう。


「まず! …ねぇ、まず情報を整理しましょう! 何が起こったのかジェラルドがちゃんと説明してくれます! ねっ!? ジェラルド?」


ジェラルドは無表情のまま私の言葉に頷いた。


「リア…そいつも呼び捨てか?」


ルークは俯いてぶつぶつ呟いているがよく聞こえなかった。


「とにかく! みんなで落ち着いて話し合えるところに行きましょう。ほら! 精霊王様もいらっしゃるのよ! それに警備兵たちも困っているわよ」


即座にティベリオが我に帰り、慌てて精霊王様の前に跪いて挨拶をする。


「精霊王様。大変なご無礼をお許しください。我らが城にようこそお越しくださいました」

「まぁ、いい。非常時だからな。重要な話がある。この男の話も聞きたい」

「承知いたしました。会議室にご案内いたします」


ティベリオが丁重に精霊王様を先導して歩き出すと、それぞれが複雑な表情を見せながらも全員でゾロゾロと会議室に向かったのだった。


***


主要な面々が会議室に落ち着くと、ティベリオが改めて歓迎と感謝の言葉を精霊王様に捧げる。


その間も男性陣は敵意の籠った眼でジェラルドを睨みつけ、一挙一動を見逃さないように見張っていた。


ティベリオだけが精霊王様に向かい話し続ける。私は溜息が出そうだった。


「精霊王様。我らの城にご足労下さった理由はございますでしょうか?」

「ああ。だが、まずその男の話を聞くべきだろう」


精霊王様はジェラルドを指さした。


それを受けてユリウスもスクっと立ち上がり、ジェラルドに尋ねる。


「私たちもこの男に聞きたいことが山ほどある。どうやってユリアを攫った? やはり女王の命令で動いていたのか?」


ジェラルドは軽く頷くと話し出した。


「そうだ。女王の命令でユリアを攫った。……辺境伯を最初に誘拐したのは単なる目くらましだ。女王はずっとユリアを取りもどそうと画策していた。何度も間者を送ったがことごとく追い払われたと聞いた」


全員が真剣な顔でジェラルドの話を聞いている。


「そんな中、女王が『間者を送りこめないのであれば、元からいる人間を寝返らせればいい』と言い出した。だからこの城の人間に協力させた。…つまり裏切者がいるということだ」

「それは誰だ?」


ティベリオが鋭く訊ねる。


「ガイウス師団長とクロエという侍女だ」


その瞬間、「嘘だ!!!」とアルバーノさんが叫んだ。


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