帰ってきたココとピパ
「ココ……ピパ……」
「ユリア! ユリア、大丈夫?! 何があったの?」
私が崩れ落ちるように地面に座りこむと、ココとピパは焦りながら周囲をパタパタと飛び回った。
「……今までどこに居たの? 全然姿を見せないから寂しかったわ」
「ごめんね…。僕たち、精霊王様のお手伝いをしていたんだ」
二人はすまなそうに頭を下げた。
「ユリア、そうなの。本当にごめんね。でもね、私たち、精霊王様からものすごい重要な任務を任されたのよ」
ピパの言葉に興味を引かれる。
「どんな任務?」
精霊王様は奥方様を殺そうとした輩を見つけて復讐することを誓ったそうだ。
奥方様にまた危険が迫ったら困るしね。
そのために精霊たちを集めて幾つかの部隊を作り、犯人の捜索に当たっているという。
ココとピパは何と第一部隊の隊長と副隊長に任命されたらしい。
二人はとても誇らしげだ。鼻をつんと上げて胸を張る仕草がとても可愛い。
「二人とも偉いわね! 精霊王様に認めてもらえたのね! すごいわ」
褒めるとヒラヒラと輝く花びらが舞い降りてきた。
ああ、二人とも嬉しいのね。
「ユリアと離れるのは嫌だったけど、ルキウスたちもいたし……。でもユリアに命の危険が迫ったら、それを感じとれるようにしておいたんだ。さっき、危ない目に遭ったでしょう? だから、慌てて駆けつけたんだよ」
何が起こったのかを簡単に説明すると、ココとピパは衝撃を受けて顔面蒼白になった。
「……ごめん。ユリアがそんな大変な時に一緒にいられなくて」
「ホント…。ごめんなさい」
ココもピパも酷く落ち込んでいるようだ。うなだれる二人を見ていると可哀相になる。
「ねぇ、私は大丈夫よ。さっきも言ったけど、クレメンスが逃がしてくれたの」
二人は額を寄せ合って「あのクレメンスがねぇ…」とぶつぶつ言っている。
うん、クレメンスの変わりようが一番の驚きだった。
「それで、急いでティベリオの城に戻ろうと思っているの。みんなきっと心配しているだろうから。クロエさんが無事に戻ったかも確認したいし」
その時、背後から「ユリア!」という声が聞こえた。
ビクッとして振り返ると、なんと息を切らしたジェラルドが立っている。
「良かった…無事か…」
ゼイゼイと肩を揺らしながらジェラルドが私を抱きしめた。
「どうしてここが分かったの?!」
「ここは思い出のある森だと言っていた。人間、逃げる時は少しでも馴染みのある場所を選ぶものだ」
彼の目が一瞬潤んだように見えた。
「ユリア…良かった。無事で…。城は大変なことになっている。追っ手がかけられた。すぐに移動したほうがいい」
「う、うん。分かった。じゃあ、すぐに辺境伯領の城に…」
「ユリアは一気にそこまで飛べるか?」
ジェラルドに問われて少し考える。それだけ長い距離はやったことがないから自信がない……。
その時ピパが口を挟んだ。
「ねぇねぇ、いい考えがあるの。最近スイレン様が目を覚ましたのよ! それでユリアに会ってお礼が言いたいって。だから、一度精霊王様の森に転移したらどうかしら? そこまでなら飛べるんじゃない? それにあそこなら安全よ」
ジェラルドが「それは良い考えだな」と応じたので、私とココとピパはびっくりして顔を見合わせた。
今までココとピパが見えた人間はいない。
「……ジェラルド。ココとピパが見えるの?」
「ああ。俺は生まれた時から精霊が見える。特に鉱山では石にまつわる精霊が多くてな。危険を知らせてくれたり、とても有難い存在だった」
ジェラルドはそう言うと、ココとピパに柔らかな笑顔でお辞儀をした。人間に対するより、よっぼど愛想がいい。
「初めまして。ジェラルドだ。ユリアを攫ったのは俺だが……罰を受ける覚悟はできている。本当にすまなかった…。だが、今は彼女を無事に城に帰したいと思っている。俺もついていっていいだろうか?」
「…うん。ユリアから事情は聞いた。精霊王様がどう思うか分からないけど…」
ココが不安そうに私を見る。
「とりあえず、ここにいるときっと危険よね。まずは精霊王様の森に飛びましょう」
私はそう言ってジェラルドの腕を取った。