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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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クレメンスとの再会

女王はそれ以上鞭を振るうことはなかったけれど、憎々しげに睨みつける悪意に変わりはない。


私は警備兵に連行され昔監禁されていた部屋に向かった。


……またあの地獄のような日々が戻ってくるのか。


今度はココもピパも来てくれないかもしれない。彼らはどこに行ったんだろう?


泣きたくなってきた。でも、仕方がない。またいつか逃げ出せる日がくると信じよう。


ルークたちはきっと私を見捨てない……と思う。


必死に自分を励ましつつも内心泣きべそをかきながらとぼとぼ歩いていたら、いよいよ部屋に辿り着いてしまった。


警備兵がドアを開けて中に私を押し込んだ。女王は後ろから悠々とついてくる。


中には誰もいないものと思っていた……が、誰かが寝台に横たわっている。


それがクレメンスだと気がついた時、衝撃で言葉を失った。


ガリガリにやせ細ったクレメンスは静かに目を閉じている。


よく見ると彼の手首には私がつけていた腕輪が巻かれていた。


……まさか、自分の子供を魔力の電池代わりにしたの?


鬼のような所業にいくら大嫌いだったクレメンスのことでも怒りが湧いてくる。


「クレメンス…なんて酷い…」


声が聞こえたのか、クレメンスの瞼が震えて薄く目が開いた。


私たちそこにいるのに気づいたのだろう。慌てて身を起こそうとするが、魔力を搾り取られやせ細った姿では体を少し動かすのも辛そうだ。


「ユリアか……? 帰ってきたのか? 無事なのか?」


懐かしそうな声色に純粋に驚いた。


今までこんなに優しく話しかけられたことがあっただろうか?


クレメンスは私の背後にいる女王を見て、嫌味っぽく嗤いながら会釈をする。


「母上……お久しぶりですね」

「あ……ああ、元気そうだな。まぁ、聖女が戻ってきたから、お前は自由にしてやろう。感謝するんだな」


どこに感謝!?


そう突っ込みたくなるが、さすがに女王自身も多少の罪悪感はあるようだ。


クレメンスはよろめきながらも立ち上がって私に近づいてくる。


背が高くてがっしりと筋肉質だったはずなのに、今は見る影もない。


ふらふらして倒れそうになったので私は咄嗟に彼を支えた。


クレメンスは私の肩にしがみつくように抱きついてきた。


大丈夫かな、こんなに弱ってしまって……と気の毒に思っていると耳元で囁き声が聞こえた。


「お前はこんな苦しい思いをしていたんだな。酷いことをしてすまなかった」


驚いて彼の顔を正面から見つめると恥ずかしそうに目を逸らした。痩せたせいか以前より少年っぽく見える。


クレメンスは再び私の耳に口を寄せた。


「お前は転移魔法が使えるな?」


よく意味が分からなかったがコクコクと頷く。


「地面に落ちる前に転移しろ」


小さく囁くと、クレメンスはいきなり私をかつぎあげて開いていた窓から外に放り出した。


……お、お、落ちる!!!


というか落ちている!


死ぬ! 死ぬ! 死ぬ…かも~。


混乱しながらもクレメンスが言った言葉の意味を理解して、必死に転移魔法を念じた。間一髪だったと思う。


地面と衝突する直前でギリギリ転移することができた。


転移する前に心配そうに窓から見下ろすクレメンスの顔が見えたが、気のせいかもしれない。


***


周囲を見回すと、私は前の晩に野宿した森に転移していた。


咄嗟に思いついた場所がここだったのだ。


あれは何だったのだろうと考える。


クレメンスが私を逃がしてくれたのか……な?


……きっとそうだよね。助けてくれたんだ。


あんなに痩せて……。しかも、私を逃がした罪で酷い目に遭っているかもしれない。


これまでクレメンスには嫌悪と恐怖しか感じたことがなかったが、初めて感謝の念が湧いてきた。


そんなに悪い人じゃなかったのかもしれない。


というか、自分で経験してようやく人の痛みが分かるようになったのかな?


実際に経験してみないと人の痛みや苦しみは分からない、って本当だよね。


人の痛みなら十年でも我慢できるって前世で誰かが言っていた。


「ユリア~~~!!!」


その時、パッと周囲が明るくなって突然ココとピパが現れた。



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