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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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人質

*ユリア視点に戻ります。



意識を取り戻した時、私は古い荷馬車に閉じこめられていた。


窓もなく四方覆われている荷台の中は真っ暗で、自分がどこにいるのかも最初は分からなかった。


ただ、ゴトゴト動く荷台と馬の蹄の音で自分がどこにいるかを推測した。


両手は後ろでしっかり縛られているし、両足首も縄で拘束されている。それだけでなく嗅がされた薬の影響か頭がぼーっとして体も上手く動かない。


でも、とにかく逃げないと……。本能で危機を察知して移転魔法を試してみた。


…………


しかし魔法を念じても何も起こらない。


この感覚を覚えている。王都で監禁されていたあの部屋だ。あの中では魔法が使えなかった。


まさかと思うけど、この荷馬車にも同様の魔法が掛けられているの?


体がまともに動くようになったら、どうにか外に転がり出て逃げよう。


そう思った時に馬車が止まった。


人が来る!


下卑た嗤い声が聞こえてきた。


怖い……。


これからどうなるか分からないという恐怖に体がじっとりと汗ばんでいる。


不意に後ろ側の扉が開いて、一気に外の冷たい空気が入ってきた。


空に月の光が見える。まだ夜中のようだ。


破落戸のような男たちがズカズカと荷台に入ってくる。


親玉のような野卑な男が私の顎を掴んだ。気持ち悪さに吐き気がする。


「へぇ、上物中の上物だな。味見してもいいか?」


ねっとりとした視線を感じると全身に鳥肌が立った。おぞましい……。


「ブルーノ、ずりーっすよ。俺だって…」


他の男たちも騒ぎ出す。


「お前らは彼女に触れるな」


その時、冷たい声がした。


視線を向けると彼らの背後にジェラルドが立っていて驚きで言葉を失う。


ティベリオを攫っただけじゃなくて私も誘拐したの?


他のみんなはどうしているの? ティベリオは無事なの?


混乱する私にジェラルドはふっと微笑んだ。


「ブルーノ。手を放せと言っている」


突然私の顎を掴んでいた男の手が真っ赤になった。


「ぎゃーーーー!」


絶叫と共に、男は床に倒れてのたうち回った。


「手を放せと言っただろう」


ジェラルドは顔色一つ変えない。


「お前、いい気になっていると……」

「本気で俺に敵うと思うのか?」


ジェラルドに言われると男たちは悔しそうに下を向いた。


ブルーノと呼ばれた男の手は火傷で真っ赤になっている。


「ううっ、いてーよ……」


泣き言をいうブルーノに、ジェラルドは傷に水をかけて軟膏らしきものを塗った。


「これでも巻いておけ」


ブルーノは不器用そうに傷に包帯を巻きながら、憎々しげにジェラルドを睨みつける。


「くそっ! 覚えてろよ!」

「あなたがたも私が女王から直々の命を受けていることをお忘れなく。聖女に一切手を出すなとも言われていますから、彼女に触れたら全員打ち首ですよ。王太子の婚約者ですからね」


ブルーノは奥歯を噛みながら言葉を飲みこんだ。


ジェラルドは私のイヤリングやネックレス、ブレスレットなどを外してブルーノに手渡した。


「これで追っ手を攪乱してください。王都とは逆の方向に向かうのです。彼女は私一人で王都まで運びます」

「お前一人でか?!」

「逃げられたらどうする?」


男たちがザワザワと騒ぎだす。


「そうだ。万が一聖女に逃げられたら困る……見張りが必要だろう。俺も一緒に行く」


ブルーノも言い出した。


あまりのことで頭が回らなかったが、隙をついて逃げるためには見張りの数が少なければ少ないほどいい。


この人には来てほしくない…。何をされるか分からないし…。


さっきの舐めるような目線を思い出して、ぶるっと身震いをした。


ジェラルドは冷たく言い返す。


「お前は来なくていい。俺たちには人質がいる。聖女殿。逃げ出したら人質がどうなるか…? ユリア嬢は頭の良い方です。意味が分からないわけはないでしょう?」


人質……?!


ジェラルドの言葉にブルーノはニヤニヤしながら頷いた。


「ああ、そうだったな。待ってな。人質を連れてきてやる」


ブルーノの合図に合せて、荷台に連れて来られたのは……


「クロエさん…⁉」

「ゆ、ユリア様…申し訳ありません。こんなことになってしまい……。ど、どうか、見捨てないで…助けて…お助けください」


クロエさんは恐怖に顔を歪ませてむせび泣いている。


ブルーノがクロエさんの手首を捩じり上げた。


「おい! 分かってんな? もし、お前が逃げようとしたら…この女をみんなの慰み者にしてから殺してやる」


勝ち誇ったように私に告げる。


それを聞いたクロエさんが顔面蒼白になった。涙が滝のように頬を伝う。可哀想に……。


…くっ! 卑怯だ。


「わ、分かったわ。逃げない。逃げないと約束するから…絶対に彼女に手を出さないで!」

「そういうことだ。俺一人で十分だな。お前たちは役割を果たせ」


冷然と言うとジェラルドは男たちを引きつれて荷台から出ていった。


後ろ手に縛られたクロエさんの顔は俯いていてよく見えないが、ブルーノが乱暴に肩を掴んで外に押し出した。荷台の扉が閉じられガシャンと錠前をかける音がする。


私は再び真っ暗闇の中に閉じこめられた。



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