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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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ルークの不覚

*ルーク視点です。


一目見た時からあのジェラルドとかいう魔導士は気に入らなかった。


夕食会の会場に現れた時、奴は俺の顔を見て嗤ったんだ。


「聖女殿にお会いできるのを楽しみにしていましたよ。美しい方らしいですね。男なら誰でも欲望を感じるほどに」


奴の言葉を聞いて俺のはらわたは煮えくり返った。


何を言っている?


リアに手を出すつもりか?


心配になって会が終わるとリアを追いかけた。


どうやら変なことはしなかったらしいが、それでも要注意だ。


俺の神経はピリピリしていた。今回の視察旅行は警護が難しい。


特に町の広場での歓迎会も兼ねたお祭りは誰でも参加できる。リアだけに注意を注ぐことができないし、不審者も入りこみやすい。


行程表を見て辺境伯とアルバーノに文句を言ったのだが、町の人々との交流は大切だなんて無茶を言いやがった。


案の定、酒が入った群衆の中から乱闘が始まって、俺がその仲裁をしている間にリアが一人になってしまったらしい。


ユリウスとラザルスもいるから大丈夫だろうと油断していた。彼らは捕食者プレデターのような女たちに囲まれて逃げられなかったという。


リアの姿を見失い俺は焦って走り回った。


すると広場の片隅に背の高いジェラルドの姿が見えた。一緒にいるのは……リアだ。


視界に入った瞬間、血の気が一瞬にして失せる。奴がリアの顎に手をかけて……まさか口づけしようとしているのか?


リアは自分が何をされているのか気づいていないようだ。


俺は一気にそこまでジャンプをして、思いきり魔導士を殴りつけた。


地面に倒れた魔導士はニヤリと嗤うと俺に向かってきた。


これくらい何てことない。返り討ちにしてやると身構えた瞬間、奴が顔の半分を覆っていた髪をかき上げて、隠れていた左目が見えた。


真っ黒な右目と対照的に左目は金色に輝いている……? そう思った瞬間、頭の中に逆らってはいけないと本能が囁く言葉が響いた。


「動くな!」


同時に体が強張りまったく動かなくなる。


魔法にかけられたと気づいた時にはもう手遅れだった。


意識はあるのに体が言うことをきかない。


その間に奴は辺境伯を攫って逃げてしまった。


どんなに悔しくて歯がみしても後の祭りだ。不覚を取った。俺の責任だ。


くっ…。


彫像のように動けない俺にラザルスが何かを叫んでいる。少しずつ聴覚は戻ってきた。


「…ルキウス! ルキウス! 大丈夫か?!」


俺の肩を揺さぶるラザルスの目尻からは涙が流れている。


ああ、可愛い弟を泣かせるなんて……不甲斐ない兄でごめん……。


不意に体の束縛が解けて自由になった。


ふぅと深く息を吐く。ああ、ようやく動けるようになった。


群衆を宥めてすぐに帰宅させることにしたが、辺境伯が攫われたところは皆が目撃してしまった。


捜索の手伝いをしたいという若者が多かったので希望者には協力してもらうことにした。


ユリウスはリアを教会の宿舎まで送りとどけ、その間に騎士団の副団長らと共に今後の対策を練る。


まずラザルスの提案通り、フクロウやヨタカに周囲を捜索してもらう。


話し合いの最中にユリウスが戻ってきた。リアは無事に宿舎に戻り安全だという。


良かった。彼女は俺たちにとっての弱点だから……。


そして俺たちは本格的に辺境伯の捜索に乗りだした。


一晩中捜索が続けられたが、依然として手がかりは見つけられない。


転移魔法を使われると痕跡を見つけることはほぼ不可能だ。


辺境伯の侍従アルバーノは泣きながら必死で走り回っている。顔面蒼白で気が狂いそうなくらい心配しているのを見ると、奴は部下に恵まれたなと思う。


皆が疲れ切って絶望感に打ちひしがれた時、一羽のフクロウが小さな布を持って帰ってきた。


アルバーノがその布に飛びついた。


「これはティベリオ様のポケットチーフです! 間違いありません!」

「ラザルス、このフクロウがどこから来たか分かるか?」

「はい! ついてきてください」


俺たちは色めきだってラザルスとフクロウの後を追う。町から数キロメートル離れた山の中にティベリオ辺境伯は倒れていた。


アルバーノが何か喚きながら辺境伯に取りすがる。


「ティベリオ様!!! どうか…どうか目を覚ましてください」


顔を涙でぐちゃぐちゃにして号泣するアルバーノ。


その時、辺境伯の長い睫毛がピクリと動いて微かに目を開けた。


ああ、生きている。良かった…。


その場にいた全員が胸を撫でおろした。


アルバーノが子供のように泣きじゃくっている。


「あ…アル…アルバーノか?」


「…ぐすっ…てぃ、ティベリオ様…良かった。本当にご無事で…良かった」


ユリウスが膝いて辺境伯と何か言葉を交わしている。


立ち上がったユリウスは俺の肩を叩いた。


「ルキウス。ティベリオ様を連れて教会の宿舎まで転移できるか? 意識もしっかりしているし命に別状はないと思う。ただ馬車で移動させると負担になってしまうかもしれないから…」

「ああ、大丈夫だ。奴の部屋のベッドに寝かせておけばいいか?」

「ああ、そのままティベリオ様の警護を頼めるか? 俺は町の人たちにティベリオ様が無事だったと伝えて後片付けをしないといけないから」

「分かった」


アルバーノは『自分も一緒に』と希望したが、二人を連れて転移する自信はさすがにない。


泣きじゃくるアルバーノを何とか説得し、俺は辺境伯を抱えて教会まで転移した。



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