視察旅行 その3
歓迎の夕食会は夜遅くまで続いた。
しかし、そろそろお開きかと思われた頃に黒いローブを全身に纏った長身の男性が突如として現れた。
真っ黒いストレートの長い髪を後ろで一つに結んでいる。前髪が長いので左目が完全に隠れているが、黒曜石のような瞳にきりりとした眉。精悍な顔立ちの超絶美形男性だ。
この世界の美形率…凄すぎる。服装から察するに魔導士なのかもしれない。
彼が現れると町長や司祭だけでなく枢機卿も早足で近づいて丁重に挨拶をしている。
え、えらい人なのかしら?
その時ティベリオが手招きしているのが見えたので小走りに彼に近づいた。
「あの方はどなたか知ってる?」
「多分、魔導士だと思う。高度な魔法でこの町を助けているらしい。数か月前に突然現れて、治癒魔法を使って人々を治療してくれているそうだよ。すごい魔導士がいるってさっき町長から聞いたばかりだ」
案の定、その町長に連れられて超絶美形魔導士がティベリオに挨拶しに近寄ってきた。
「ティベリオ様、こちらが先ほどお話したジェラルドです。この町は彼のおかげで非常に助かっておりまして……。素晴らしい力を持つ魔導士なんです」
「ジェラルド殿。この町のために尽くしてくれてありがとう。心から感謝する」
ティベリオは笑顔でジェラルド様と握手をした。私も挨拶しながら深くお辞儀をする。
「初めまして。ユリアと申します」
ジェラルド様も如才なく挨拶を返す。姿勢が良いから単なるお辞儀でもすっごくカッコよく見えた。
他の人と違ってジェラルド様は挨拶だけ済ますとすぐに町長と連れ立って去っていく。変なお世辞みたいなのを言われなくて良かったと胸を撫でおろした。
みんな、ティベリオと話ができてとても嬉しかったんだと思う。満足げな顔をして三々五々家路についた。
私ももう少し社交的になって初対面の人とでもスムーズに話ができるようになりたいと反省した。ティベリオを見習おう。
ティベリオやユリウスたちにおやすみを言って部屋に戻ろうとした時、ルークを見かけた。目が合ったので小さく手を振ると、ルークが真面目な顔で駆け寄ってきた。
「大丈夫か? 部屋まで送るよ」
「ううん。大丈夫よ。クロエさんが迎えにきてくれるって言っていたし…。それより、警備、お疲れさま。ちゃんと夕食食べた? 本当にありがとうね!」
「夕食は交代で食べたから大丈夫だ。クロエはまだ来ていないみたいだから送るよ。心配だし」
ルークはそう言うと私の手を取ってズンズンと歩き出した。
「最後にさ、やけに顔のいい魔導士が来たけど…リア、変なこと言われなかった?」
「変な、って…?」
「その…口説かれるとか?」
ルークの言葉に思わず噴き出してしまった。
「全然。挨拶しかしなかったよ」
くすくす笑いながら答えると、ルークは安心したように小さく息を吐いた。
「良かった。やたらと顔面がいい奴は女癖が悪い気がして心配だったんだ」
「心配しすぎよ。向こうにだって選ぶ権利があるもの。それに……それを言ったらルークだって女癖が悪くなっちゃうわよ」
ルークは赤くなって握った私の手をさらにぎゅっと掴んだ。
「リアにそう言ってもらえるのは嬉しいけど……。リアは無防備すぎる。自分の魅力が分かってない。男だったら誰でもリアに惹かれると思う。だから気をつけてほしいんだ」
真剣な顔で懇願されて戸惑いながらも小さく頷いた。
「あ、ユリア様! 遅れて申し訳ありません!」
クロエさんがそこに現れたのでルークは名残惜しそうに私の手を放す。
もう少し一緒にいたかったな…。
でも、それは口には出せない。お互いに「おやすみ」と言ってそれぞれの部屋に帰っていった。




