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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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視察旅行 その2

新しく完成したばかりの堰は威風堂々たる構造建築物だった。


この世界でこれだけのものが作れるなんてすごい!


水門は木製で水量調節がしやすい造りになっている。その規模にも驚いた。


その場にいる人達に手伝ってもらって可動堰として正しく機能するかどうかもチェックした。


ティベリオも満足気で、現場で働いた人達と設計技師には特別に褒章が授与されることになるらしい。


良かったね。これで洪水の被害は軽減される。勿論、領内の全ての洪水を防げるわけじゃないけど、歴史的に被害が大きい地域を選んだから領民の生活はかなり守られるはずだ。


堰の視察はスムーズに進み、我々は次に視察予定の町に移動した。


その町には地域の中心的教会があり、その建物を宿舎として使わせてもらう手筈になっている


領主と聖女が来るという噂は町に届いていたのだろう。町に到着すると多くの人々が大きな歓声をあげて迎えてくれた。


子供たちの姿も見える。豪華な馬車と威容を誇る騎士団の面々を興奮した顔で見上げていた。


私は馬車の窓から顔を出すようにして笑顔で手を振った。


一瞬、沈黙が下りたので『あれ? なんか間違えた?』と思ったら、次の瞬間に耳がじんじんするくらいの大歓声が降りかかってきた。


「聖女様だ~!」

「お姫様みた~い!」

「可愛い~!!!」

「結婚してくれ~!」


恐縮するような声援を送ってもらい恥ずかしくて顔を伏せそうになったけど、同じ馬車にいたティベリオも身を乗り出して手を振りだした。


「ユリア、顔を上げて。手を振ってあげて」


歓声が一段と高まる。特に黄色い声が倍増した。


「きゃ~~~!!!」

「領主さま~! 素敵!!!」

「結婚して~~!!!」


物凄い歓声の中、私たちは町の中心にある教会へ進んでいった。ユリウスたちは苦笑している。


教会では枢機卿も出迎えてくれた。エライ人なのに、フットワーク軽いなぁ。枢機卿は人々にも人気らしく、やはり大きな声援を浴びていた。


「ユリア嬢。またお会いできて光栄です。今回は洪水対策だけでなく人々と触れ合う機会も作ってくださり誠にありがとうございます」


また平伏しようとしたので慌てて枢機卿を止めた。


「だ、大丈夫です。どうか……どうかお気になさらないで下さい。私も皆さんにお会いできるのを楽しみにしておりました」


私の言葉を聞いて枢機卿は目をうるうるさせている。感激屋なんだよね。


その教会の司祭にも紹介してもらい宿泊する部屋に案内してもらった。私はクロエさんと同室だ。


ティベリオは自分だけ一人の個室は嫌だと言って、結局アルバーノさんと同室になったらしい。ユリウスとラザルス、ルークと騎士団の副団長が同部屋になったそうだ。


女性だからか、私たちの部屋は男性陣の部屋からは大分離れている。


ちょっと怖いかも…と思ってしまった。


でも大丈夫と自分に言い聞かせる。皆忙しく警備の手配に追われている。騎士団もきびきびと立ち働いている。この人たちに守られていて不安なんてことはない。


着替えた後クロエさんが運んできてくれたお茶を飲み、夕食までのんびり過ごすことにした。


夕食は歓迎会も兼ねていて参加者が多かった。町の有力者だけでなく教会の関係者も招かれているようだ。


うぉ~、完全な接待…っていう感じ。


クロエさんが気合を入れて私を着飾らせた理由が分かった。


飢饉の時に豪勢な食事は断るとティベリオが事前に通告してくれたおかげで食事は庶民的なものだった。雰囲気もカジュアルな立食形式である。


ただ、いろいろな人からやたらと話しかけられる。コミュ障で人見知りの私にとってこういったパーティでの社交は一番苦手とするところだ。


「いやぁ、聖女様は誠に美しい」

「全くですなぁ。智慧と美しさを兼ね備えた女神のような方ですな」

「私は隣町の町長なのですが、是非我が町まで足をお運び下さい」


見ず知らずの男性陣に取り囲まれた私は何と返事をしていいか分からず、アワアワと口籠るだけだった。


その時救世主のようにティベリオが現れた。


「申し訳ありません。今回はどうしても時間が取れず、そちらの町まで伺うことはできませんが次回は立ち寄らせていただきますよ」


すっと私のすぐ隣にさりげなく立つ。


その後、会話のほとんどはティベリオが担当してくれて、私はたまに話しかけられて「はい」「いいえ」と答えるくらいの会話量で対応できた。奇跡だ。


ティベリオの社交術。すごいわぁ。見習いたいところだと反省する。


しばらくするとユリウスとラザルスが近づいてきた。


「ユリア、何も食べてないだろう? 飲み物もあるから」


ようやく社交の輪から抜け出せて私は大きな息を吐いた。


「はぁ、やっぱりこういう社交の場は苦手だわ…」

「ユリアはよく頑張っていたよ。ユリアの笑顔を見たいから皆褒めるんだけど、かえって居心地が悪かったろう?」


ラザルスが私の頭を撫でる。


「お前は日に日に綺麗になるからな…。兄としては変な男に言い寄られないか心配だよ」


ユリウスからも肩をぽんぽんとされた。


私に甘い兄弟たちだ。ところでルークはどこだろうと周囲を見回す。


「ルキウスは警備で見回りをしているよ。なんか変な気配を感じるって……」

「変な気配?」


ラザルスの言葉に少し不安を覚えた。どうしてだろう? 心の奥がざわざわする。


「大丈夫だ。ルキウスの強さは知っているだろう? それに騎士団の副団長もいるし護衛騎士も精鋭揃いだ。何も心配することないよ」


ユリウスが安心させるように頭を撫でてくれる。


「でも、ユリアが変な男に声をかけられないように注意してくれって、ルキウスから頼まれているよ」


完璧ともいえるユリウスのウィンクに思わず顔を赤らめた。




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