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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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視察旅行 その1

*ユリア視点に戻ります。



堰の視察団は大掛かりなものになった。


ティベリオを始め、アルバーノさん、ユリウスたち三兄弟、設計技師と現場監督、辺境騎士団副団長などなど、数日間の視察にかなりの人数が当てられている。VIPがいるので護衛の騎士も相当数必要になるからだろう。


堰の視察だけでなく近隣の町の様子も視察したいとティベリオが希望したのでスケジュールもかなりタイトだ。


一応聖女の私も地域の教会を訪問し人々と交流するよう依頼されている。


『こんなコミュ障の私で大丈夫かしら……?』と不安を覚えつつも、『役に立てることがあるなら頑張ろう!』と前向きにとらえることにした。


アガタが私の付き添いとして同行してくれる。


「私が全面的にユリア様をお助けしますので大丈夫です!」


頼もしくて有難い存在だ。


視察の日程が近づくと楽しみなような緊張するような不思議な感情が湧いてくる。


ルキウスと最後にちゃんと会ったのは「リアと呼んでいいか?」と聞かれた時で、その後は時々すれ違うくらい……。


でも、避けられている感覚はなくなり、すれ違った時にはにかむような微かな笑みを見せてくれるようになった。


それだけで嬉しくて胸がじんわりと温かくなる。


今回の視察の旅では話す機会もあるかもと思っただけで胸が高鳴ってしまう。我ながら重症だ。


最近またモナさんの姿が見えないけど大丈夫なのかな? まぁ、いつものことなんだけど。


ファビウス公爵は今回は留守番役だ。


ムア帝国との不可侵条約はとんとん拍子に進んでいるとのことで、その準備に忙しいらしい。王都のカントル宰相の後押しも話が速く進む要因だという。戦いを避けることができるなら、それが最良だ。


ところが出発の前日に思いがけない出来事が起こった。


突然アガタが体調を崩したのだ。嘔吐が激しく脱水症状も出ており、命に別状はないがとても視察に行けるような状態ではない。


それでも絶対に行くと言い張っていたが、何とか彼女を説得した。


アガタはなくてはならない大切な人だからどうかゆっくり休んで早く元気になってほしいと伝えると彼女は号泣した。


「も、申し訳ありません。こんな時に不甲斐ない…」


留守の間は侍医が診てくれるし、ディアナ様とモニカさんもアガタの世話を買ってでてくれた。


まぁ、仕方ないな。侍女はいなくても大丈夫だろうと思っていたら、廊下でクロエさんに声を掛けられた。


「聖女様、あの…アガタさんが体調を崩されたと伺いました。大丈夫ですか?」


クロエさんは、アガタを心配している様子だった。


「うん、大丈夫よ。お医者様も診てくださったし、しばらく休養すれば良くなるだろうって」


安心させるように説明する。


「…あの、明日から視察に行かれるのですよね? アガタさんもご一緒されると伺っていましたが?」

「ああ、アガタは行けないけど私は一人でも大丈夫なので」

「えーーー!? いけません。ユリア様は聖女として教会の象徴でもあらせられます。身の回りのお世話をする侍女は必要です!」


クロエさんはきっぱりと言い切った。


…そ、そうなのかな?


うーむ、と考え込んでいたらクロエさんがおずおずと口を開いた。


「あの…私で良ければお手伝いさせていただきますが? もちろん、アガタさんの代わりが務まるとは思えませんが、多少なりとも聖女様のお力になれれば光栄です」


そっか……。恋人のアルバーノさんも視察に行くから彼の近くにいたいのかな? でも、それは有難い申し出かも。人見知りなのでまったく知らない人を侍女として連れていくのは抵抗があるし……。


ただ…ティベリオは辛いかもしれない。


やっぱり断った方が無難だろう。


「ありがとう。でも私は本当に大丈夫よ。教会の品位を下げないように注意するから。本当にありがとうね」


ぺこりとお辞儀をしながらその場を離れた。


ところがその日の夕食後にティベリオが近づいてきて思いがけないことを言われた。


「アガタの代わりにクロエを連れていくといい」


私が驚いていると彼も驚いた表情を浮かべた。


「え? クロエはユリアから頼まれたって言っていたけど…?」

「ううん。同行してくれるって申し出はあったけど、私は一人で大丈夫だからって断ったのよ」

「そうなのか?」


ティベリオは腕を組んで考えこんでいる。


「もしかして、私に気を遣ってくれたのか?」


さすが鋭い質問にドキッとした。


焦る私を見てティベリオは破顔する。


「ああ、やっぱり。私に遠慮する必要はない。ユリアのおかげで立ち直れた。慣れていかなくてはいけないことだからね。それに淑女には侍女が必要だろう? 今回は人前に出る機会も多いから、やはり侍女がいたほうが良い。クロエが嫌なら別な侍女を探すが…」

「え? いえいえ! とんでもないです! じゃあクロエさんにお願いしてもいいですか? 本当に大丈夫?」


それでも心配で念を押すとティベリオは恥ずかしそうに微笑んだ。


「大丈夫だ。だが視察中、私の隣にいてくれるか? ユリアがいると強くなれる気がするんだ」

「もちろん! 私もティベリオが一緒だと心強いです!」


そうして視察団に急遽クロエさんが加わることとなった。




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