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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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アルバーノの恋

*ユリア視点に戻ります。



女王との初戦に勝利し、城内は喜びとリラックスしたムードで満たされた。


一人不機嫌なのは国軍のガイウス師団長だ。面白くなさそうに周囲にいる兵士を怒鳴りつけているのをよく見かける。彼だけが苦虫を嚙み潰したような顔で歩き回っていた。


「まだ序盤だ。今後どうなるかは分からない」


ファビウス公爵やユリウスたちは油断せずにティベリオと今後の策について話し合っているらしい。


私は畑の世話をしたり、料理長の手伝いをしたりしながら、比較的のんびりと過ごしていた。


そういえば、最近ココとピパを見かけないなぁ……。


豊作の畑を見る度に二人がいない寂しさが募る。


精霊は元々気まぐれだ。以前にも姿を見せないことはあったけど、こんなに長く現れないのは珍しい。


……どこに行ったのかな?


畑で農作業をしていると、アルバーノさんが笑顔で手を振りながらやってきた。


「ユリア! ティベリオ様がお呼びなんだ。堰が完成したらしい。堰を設計した技師がユリアに最終的な確認をお願いしたいそうだよ」


そうだ。設計士や施工担当の現場監督と堰工事の打ち合わせを何度も繰り返してきた。


前世のようにコンクリートでしっかりした水門などを作るのは難しいだろうが、この世界の材料で似たようなものが作れないかと知恵を出しあった。


もうできたんだ! 早いなぁ。


魔法を使って施工するからそんなに時間はかからないとティベリオが言っていた通りだ。ワクワクしながらアルバーノさんと連れだって歩きだす。


ティベリオの執務室に向かう途中、若い女性がアルバーノさんに声をかけてきた。


見たことがある女性だなぁと思っていたら、救護テントでアルバーノさんの怪我の手当てをしていたクロエさんだ。


彼女はアルバーノさんしか視界に入っていないようだったけど、一応笑顔で会釈した。


「あ、聖女様! お、おはようございます! 気づかず申し訳ありません…」


クロエさんは少し慌てた様子で深くお辞儀をする。


「え、いえ、そんな、アルバーノさんに用事があるんですよね? 私は一人で行けるので…だから、その良かったら…どうぞ……」


私のことは放っておいても大丈夫ですよとアピールするが、アルバーノさんは笑顔で、でもきっぱりと断った。


「いや、ティベリオ様のところにユリアをお送りするのが俺の仕事だから。送り届けた後で話を聞くよ」

「ううん、あの…その用事がある訳じゃないの…。アルバーノと一緒にいたくて……。夕べも忙しくて結局会えなかったじゃない?」


クロエさんはもじもじしながら赤くなる。それを聞いたアルバーノさんの顔も真っ赤になった。


え? あれ? もしかして二人って…?


アルバーノさんは「また後で」とクロエに挨拶しながら、前に進むように私を促す。


「ねぇ? あの…もしかして、二人って…?」


まだ顔の赤みが引かないアルバーノさんに尋ねると、アルバーノさんは気まずそうに頷いた。


「ああ、うん…実は付きあってるんだ」

「そうなのね! 怪我の手当てをしている時から良い雰囲気だなと思っていたの。良かったね! おめでとう!」


私がはしゃぐとアルバーノさんの表情が真剣になった。


「ユリアは…喜んでくれる?」

「もちろんよ! 幸せなんでしょう?」

「う、うん……。まぁね。」

「どうしたの? 何かあった?」


アルバーノさんの顔が曇ったのが気になる。


「いや、私的なことだけどティベリオ様にも一応報告したんだ。そうしたら…口では良かったと言ってくださったんだが……内心はあまり喜んでおられない風に見えたから」


「え?! ティベリオはアルバーノさんの幸せを喜んでくれると思うけど…。でも、長年の幼馴染に恋人ができたら、もしかしたら寂しいって思うかもしれないわね」


「…うん。実は俺も恋人を作ってもいいかな、と思ったのはティベリオ様とユリアのことを見て、少し寂しいと思ったからなんだ」


アルバーノさんの言葉にまた驚いた。


「え!? 私とティベリオ?」


「ティベリオ様があんなふうに女性と話すのは見たことがないし、ユリアといるティベリオ様はとてもリラックスして幸せそうなんだ。……だから、俺もべったりしすぎないようにって。も、もちろん、クロエが可愛いと思ったから付きあっているんだけど…」


モゴモゴ言うアルバーノさんの言葉に私は衝撃を受けた。


……そうか、周囲からはそんなふうに見られていたんだ。


周囲の人間が自分の行動をどう見ているのかを認識する能力を『メタ認知』と呼ぶ。私は前世からメタ認知がどうしても苦手な人間だった。鈍感というか…。はぁ。生まれ変わっても成長しないもんだな。


「私とティベリオの間には友情以外は存在しないよ。もし、恋愛関係があるように誤解されているんだったら、その誤解は解かないと……」

「ユリアはそうかもしれないけど、ティベリオ様は絶対にユリアのことを女性として好きだと思うよ」


アルバーノさんは頑なだ。


「私はもう恋愛とかしないから…」

「またそんなこと言って! ティベリオ様への感情も変わるかもしれないじゃん? 俺は嬉しいんだよね。ティベリオが心惹かれたのがユリアで。容姿とか権力とかお金とか、そういうものに惹かれてティベリオ様に群がる女性が多かったから。だから……できたらティベリオ様のことを真剣に考えてほしい。支えてあげてほしいんだ。今すぐじゃなくていいからさ」


どう答えていいか分からないと迷っていたら、ティベリオの執務室に到着してしまった。


ぎこちなく会話が途切れたまま、アルバーノさんが扉をノックした。




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