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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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家族

赤ん坊の私が初めてエミリアに会った時、生まれてすぐに母親と引き離された私が不憫だと彼女は泣いてくれた。


産まれたばかりの赤ん坊を失ったお母さんも気の毒だと静かに涙を流していた。


人の痛みを慮って泣けるエミリアは信頼できる。


それ以来、エミリアは私の第二のお母さんになった。


彼女の夫マリウスは平民の出自ながら国軍を率いる将軍だったが、昨年落馬事故で亡くなったためエミリアは未亡人らしい。


マリウス・カエサル将軍はお爺さんに見せられた動画の中で、聖女を旗印に反乱軍をまとめる将軍だった。


彼が亡くなっている、ということは既に天界の筋書きは狂っている。


(一体どうなっているのよ!?)


正直、お爺さんを問い詰めたくなる。


未来が不安で堪らないが、最善を尽くすだけだと自分に言い聞かせた。


***


エミリアには三人の息子がいる。上からユリウス、ルキウス、ラザルス。


ラザルスは数か月前に生まれたばかり。自分も新生児なのに何を言うかと突っ込まれそうだけど、ラザルスはとても可愛い赤ちゃんだった。


ユリウスは赤毛、ルキウスは黒髪、ラザルスは栗色と髪の色はそれぞれ違うが、共通して三人とも綺麗な空色の瞳をしていた。全員、前世だったらアイドルにもなれそうな美少年だ。


私のお守りをしてくれるのはいつもユリウスだった。ルキウスはラザルスの面倒を見る係で、私を抱っこしたこともなかった。


ルキウスには明らかに距離を置かれていた。成長してよちよち歩きができるようになっても決して近づいてはこない。会話ができるようになっても彼から話しかけられることはなかった。


常に一定の距離を取るルキウスの横顔を私はこっそりと見つめていた。


……嫌われてるのかな?


そう思うことが何度もあった。そして、それは驚くほど私を深く傷つけた。


ルキウスは優しいから、意地悪とか冷たい態度をされたことはない。


しかし『あ、私のことが苦手なんだろうな……』という態度は感覚で分かる。必要以上に近づきたくないという気持ちが伝わってくるのだ。


前世でも『この人に嫌われている』と思った瞬間に、私はできるだけ距離をとるようにしていた。不必要に距離を詰めて嫌な思いをさせてはいけない。


現在も私は居候で、彼らの生活の邪魔になっていることは事実だ。


自分にできるのは、息をひそめてルキウスの不快指数を最小限にすることだけだと私は慎重に暮らしていた。


その代わり、というのも変だが、他の家族は大きな愛情を注いでくれた。


特にユリウスの溺愛ぶりは群を抜いていて、それをまったく隠そうともしなかった。彼があまりに私を可愛がるので、エミリアはよく揶揄っていたものだ。


「あんたは本当にユリアが大好きね」

「当たり前だ。ユリウスとユリア。Like two peas in a pod!」


ユリウスは私を高く持ち上げて、お日様みたいな笑顔を見せてくれた。


『一つの鞘に入った二粒の豆のように』って、仲が良くて似通ったカップルとか友達に使うんだよね。ちょっと古いけど日本語だと『ニコイチ』って言うのかな。


確かにユリウスとユリアは名前も似ているし、いつもユリウスと一緒に居たので「二人一組!」みたいに括られるのは自然なことのように思えた。


今後の展開には不安しかなかったけど、幼児のままだ何もできない。もう少し大きくなるまで、できることと言えば耳をすまして情報収集するくらいだ。


まずはエミリア達の会話から現状を把握するよう務めた。


女王、つまり悪い魔女の名はアグリッピナ、王太子の名はクレメンス。


表向き、ユリアはクレメンスの婚約者になるが、動画の中では傲慢で嫌な男でユリアは嫌っていた。


筋書きは既に大きく変わっている。


まず、何度も言うが聖女の魂は元王女ではない。


そして、私が15歳の時に反乱軍を指揮するはずのマリウス将軍は既に死んでいる。


ユリアと協力して反乱軍を勝利に導く予定のユリウスには弟が二人いる。動画ではユリウスの弟たちのことはまったく触れられていなかった。


それに動画では赤ん坊の聖女が誰に養育されたかの説明はなかったが、私は王宮内ではなく城の外でエミリアに養育されている。それに関しては感謝の気持ちしかない。本当に幸運だった。


でも、悪役の女王は存在し、大きな敵であることは間違いなさそうだ。


私は継母の女王に虐待され殺された王女の魂ではないけれど、いつか女王と対峙する時が来るのかもしれない。


マリウス将軍不在の中、反乱軍をまとめられる人間はいるのだろうか?


ユリウスが代わりを務めるのだろうか?


彼は国一番の弓の腕を誇るとあの使者は言っていたけれど……。


……いずれにしても反乱が起こるのはまだ先の話だ。


まだ時間はある……と思いながら、私はまたウトウトと眠ってしまった。子供は寝るのが仕事だ……と自分に言い訳しながら。


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