表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
45/94

女王の侵攻

教会や地域の代表の人たちへの研修は無事に終わった。飢饉の防止策はこれから領内に広く伝播していくだろう。ティベリオもほっとした様子だった。


私はその後も魔法の訓練をしたり、城内の食事のお手伝いをしたり、それなりに忙しくも充実した日々を過ごしていた。


だが、その平穏は一羽の鳥の訪れとともに終わりを告げた。


ラザルスが血相を変えてティベリオの執務室に飛びこんできた時、私はティベリオ、ユリウス、アルバーノさんたちと定例の会議を行っていた。


「あ、あの! ティベリオ様! 王都より連絡が! 女王が魔獣らを引き連れてこちらに向かうそうです! 恐らく一週間程度でこちらに到着するかと……」


全員ガタッと立ち上がり、その場が突然強い緊張感に包まれた。


ティベリオの眉間の皺が深くなる。


「全員を呼んでくれ」


アルバーノさんは「はっ」と短く答えると急いで部屋の外に走りさった。


ラザルスは王都からの情報をティベリオとユリウスに詳しく報告している。


実はこれまでにも間者というかスパイというか隠密というか、そういう輩が辺境伯の城に侵入しようとした出来事が何度もあった。


しかし、その都度あっという間にルークに捕獲されていた。


ルークは桁外れに強くなっただけではない。異常な確率で侵入者を感知することができるようになった。まるでレーダーというか、アンテナというか、そういうものがついている感じ。


おかげで民間人や商人のふりをしたスパイたちも、夜の闇に乗じて忍び込もうとした間者もすぐにルークに見破られて、城の外に追い出されていた。


女王は業を煮やしたのだろう。今度は自ら魔物たちの力を使い、実力行使に訴えることにしたようだ。


大丈夫だろうか……?


不安を抱えながらその場に立ちすくんでいると、扉が開いてファビウス公爵、マルティーノ騎士団長、ルークが入ってきた。


彼らの後ろにもう一人壮年の男性が続く。


見たことがある、気がする。国軍の一番偉い人じゃなかったかしら?


……名前は分からないが、彼は苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。眉間の皺に一円玉が挟めそうだ。


部屋に入ってきた時に、ちらっとルークと目が合った。


少し寂しそうに微笑むルークに「気をつけて!」と口パクして小さく手を振った。


ルークの顔が一瞬紅潮して、その後しかめっ面になった。


昔は分からなったけど、これは照れている顔だ。


子供の頃からもっとルークの感情が理解できていたら良かったのにな。今さら思っても詮無いことを考えてしまう。


軍事会議が始まるので私は部屋から退室しようとしたが、ティベリオに止められた。


「ユリアは参謀だ。彼女も出席して構わないだろう?」


すると国軍のエライ人だけが難色を示した。


「国防に関する機密を扱う会議です。女性が、特に閣下のお気に入りの女性がこの場にいるのは公私混同になりませんかな」


眉を顰めて抗議する。


ラザルスとルークが血相を変えて言い返そうとしてくれたが、ティベリオは落ち着いて彼らを目で制した。


「ガイウス。彼女はこの城全体に防御の結界を張ることができる。戦の際には結界を張ってくれると申し出てくれた。彼女も防御の要であることは間違いない」


ガイウスと呼ばれた人物は驚きで目を見開いた。


「…こ、この城全体にですか? こんな小娘に……いえ、失礼しました。そんなことが可能なのでしょうか?」


可能なのよ~。結界のことを進言したらティベリオは快く受け入れてくれた。やはり度量が大きいと感じるのはこんな時だ。彼は絶対『小娘』なんて言わないからね!


「既に騎士団と共に実験をした。ガイウス、お前はしばらく王都に戻っていただろう? その間にマルティーノたちと一緒にユリアの結界を試してみた。結界が張られている間は城のどこからも侵入することはできないし、攻撃も効かなかった」


そう。ティベリオや騎士団の皆さんと結界の実験を行ったんだ。確かにティベリオの言う通りだけど……。でも、過剰な期待を持たれたら困る。私はつい口を挟んでしまった。


「あ、あの、でも結界は一時的なものです。どれくらい維持できるかは分かりません。それに、大砲や衝撃の大きい攻撃をされたら、破られる可能性もあります」


ガイウスは胡散臭そうに私をジロジロと眺めた。


「……閣下。お気に入りだからと言って、あまり過信しないほうがいい。恋は盲目とはよく言ったものだ」


ユリウスたち三兄弟は目を剥いて怒りを露わにした。


でも、今は身内で争っている場合ではない。


それを汲んだかのようにファビウス公爵が大きく手を叩いた。


「言い争っている暇はない。女王軍がこちらに迫っているんだぞ!」


全員がハッと我に返り黙って席についた。私は迷ったけど目で促されてティベリオの隣に座る。


言いたい放題言われたなぁ。過大評価っていうのは否定しきれないけど、恋は盲目とか、どういう意味よ。


内心穏やかではなかったが、外見上は冷静さを装った。


「ユリア、こちらは国軍のガイウス・メッサーラ師団長だ。ちゃんと紹介したことはなかったな。すまない。ガイウス、ユリアは教会からも認められた聖女だ。礼を尽くせ」


ティベリオが紹介してくれたので一礼すると、ガイウス師団長は舌打ちしながら私を睨みつけた。


「彼女が身勝手にも王都から逃げ出したから、女王陛下が直々にお越しになるのだろう? 彼女が大人しく王都に戻れば戦になんかならずに済むのに!」


吐き捨てるように言われてショックで言葉を失った。


「王都に戻った時、私は聖女を王都に戻すようにという命令を受けた。そもそも王太子殿下の婚約者でもあった聖女がなぜ王都から逃げ出す必要がある?」


『私がどんな扱いを受けていたのか知らないんだろうなぁ~。でも、これが世間の声ってやつかもね』


内心やるせない気持ちになる。その時ユリウスが立ちあがった。


「ユリアは王都で監禁、虐待されていた。それに我々はあの女王をいつまでも戴いているつもりはない。我々は女王を排除しこの国を立て直す。でないと、この国は滅びる道を避けられない」


ユリウスの声は確信に満ちている。気圧されるような迫力があって、他の誰も言葉を発することができない。


しかし、苛立ったガイウス師団長がダン!と円卓を叩いた。


「ふざけるな! 国軍は国を守るためのもの。この辺境師団はムア帝国軍から国境を守るために配備されている。女王陛下に刃を向けることはない! 国軍は一切協力しないし、女王陛下のお味方をする心づもりでいるからな!」


「国軍の兵士には王都に家族がいる者も多い。いわば、家族を人質に取られているようなものだ。女王と戦いたくない者を無理に戦わせる意図はない」


ティベリオが安心させるように口を挟むがガイウス師団長の怒りは収まらない。


「しかし、貴様らが女王陛下と戦えば、国軍も一蓮托生で反乱軍だと思われてしまうんだよ! どうしてくれる!?」


もう言葉遣いを気にする余裕もないのだろう。ガイウス師団長は唾を飛ばしながら周囲に噛みついた。


「……国軍の助けは必要ない。俺一人で十分だ」


ルークが呟いた。


「なんだとぅ!? この青二才が!!!」


ガイウス師団長が吠えると、マルティーノ騎士団長もルークに同意した。


「そうだな。辺境騎士団はルキウスと一緒に戦う。我々だけで十分だろう。国軍は城から出て、遠く離れた中立地点で戦いの様子を見ておれば良い。そうすれば女王も国軍は中立を保ったと認識してくれるだろう。勿論、俺たちと刃を交わしたければそうすればいい」

「…う…こ、この……くそ……」


震える拳をどこに振りおろしていいのか分からなかったのだろう。ブルブルと拳を握りしめたまま、ガイウス師団長はドスドスと部屋から出ていった。


自分のせいで怒ってしまったのではないかと、不安と申し訳なさでおろおろしているとティベリオが苦笑して私の頭を撫でた。


「ユリア、大丈夫だ。君のせいじゃないよ。ガイウスは以前から女王派だったんだ」

「でも……」


ティベリオを見つめると、ファビウス公爵が手をパンパンと叩いて苦笑した。


「ほら、そこ! イチャイチャしない! 三兄弟も殺気を消して!」


パッとユリウスたちを振りかえると、彼らは気まずそうに顔を背ける。


マルティーノ騎士団長は我慢できなくなったように噴き出した。


「……元々国軍には期待していなかったから大丈夫だよ。それにユリア嬢のおかげで領内の飢饉対策もできたし、皆感謝している。ユリア嬢が来てくれて良かったと皆が思っているから、ガイウスのことは気にしない方がいい。彼は元々問題があってね。我々と意見が合わなかったんだ」


騎士団長が説明してくれて、少し気持ちが楽になった。


「それに女王が魔獣を引き連れてくるといっても、基本的に飛竜が二十数頭程度だという話だよ。オグルたちの魔人軍は来ないし、国軍の助けがなくても十分戦えると思う」


ラザルスが明るい声で言うが、飛竜ってあの大きい魔獣だよね? あれが二十数頭って…相当威力がありそうな気がするんだけど……。しかも、文献によると前世のゴジ〇みたいに口から炎かなんかを吐いたりできたと思うのよ。


私が不安そうな顔をしていたのだろう。ユリウスが安心させるように笑いかけた。


「ユリアは結界に集中してくれ。戦いは俺たちで何とかする」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ