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塩対応の騎士が甘すぎる  作者: 北里のえ
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幽閉生活


……ああ、お腹が空いた。


王宮に連れてこられてから何か月が経ったろうか。


考えることは「……お腹が空いた」しかない。そんな日々が続いている。


やっぱり女王は鬼だった。


王宮に連れてこられた日、私は手首に腕輪をつけられた。


腕輪をつけると私の魔力が女王に自動的に供給されるようになるらしい。


しかも、女王が認めた者以外とは話ができなくなるという。


さらに魔法が完全に遮断された部屋に監禁された。


えーっと、色々言いたいことはある。


腕輪? 魔力を吸い取られる? 動画ではそんなの無かったよ。それにユリアは王宮の中で結構自由に動いてたよ?


誰とも会話できない? そんな話聞いてないよ? 動画の中では、誰とでも普通にお喋りしていたよ?


自分の部屋では魔法が使えない……というのは、確か動画でもそういう設定だった。仕方ない。納得だ。


でも、動画よりも状況が大幅に悪化していて憂鬱になる。


あのお爺さんはこうなることを知っていたのかなぁ?


もっと色々と尋ねるべきだった、と臍を噛んでも後の祭りだ。


そして『生かさず殺さず飼ってやる』と面と向かって女王から言われた時は、まさに身の毛がよだつというか、全身に鳥肌が立った。


女王の言葉を聞いて、その場にいた騎士団長が抗議してくれたが、女王は騎士団長を鞭で打ちすえた後、減棒にすると宣言した。


それ以上文句を言うなら解雇して国外追放だという。


何というモラハラ。前世のブラック企業以上の所業にはらわたが煮えくり返った。


だからと言って、五歳児に何かできるわけではないのが辛いところだ……(悲)。


「生かさず殺さず」という言葉通り、私に与えられる食事は朝のうっす~いお粥一杯のみ。あとは水。


おい、私はまだ五歳で育ちざかりなんだよ。こんなんじゃ足りないよぉ!って心の中で毎日罵る。


どんどん体重が減って、立っているのも辛い状況になってきた。


ハッキリ言って、日がな一日横になっているしかできない。


ただ、この部屋には大量の本が並んでいる。


「ひもじい思いをしながら、何もすることがないような状況に人間を追い込むと精神を病んで自殺するかもしれません。せめて本が読めるような環境を整えて下さい」


女王と王太子以外で私と唯一話ができる宮廷医師が訴えてくれて、さすがに自殺されるのはまずいと思ったのだろう。壁いっぱいに本棚があり、様々な分野の本がズラリと並んでいる。


前世から本は大好きだったので、読書できることが唯一の救いだ。


その後、女王は何度か様子を見にきたが、気力もなくベッドに横たわっている私を見て、満足そうに嗤っていた。


『クソ!意地悪女め!』と内心で毒づく。お腹がすき過ぎると性格も口も悪くなる……(涙)。


しかも、女王は若さと美しさが戻って来て、超ご満悦だ。


確かに肌は潤い、今までのような無理した若作り感が無くなり、まだ十代と言っても通るような瑞々しい美しさに溢れている。


それも私から搾り取った魔力のおかげかと思うと腹立たしい。クソ!と再び内心で毒づいた。


弱々しくベッドに横になっている私を何度か確認した後、女王はまったく姿を現さなくなった。


私の精神衛生上もその方がいい。


しかし、代わりに王太子が頻繁に訪れるようになった。


クレメンス王太子は横柄で生意気なガキだった。確か私より四~五歳くらい年上だと聞いている。もう十歳近いだろうに、我儘で子供っぽい。


高慢で人を人とも思わない態度は女王そっくりで、将来こんな奴と結婚しなきゃいけないのかと思うと、暗澹たる気持ちになる。


クレメンスの外見は金髪碧眼の美少年で、将来はイケメンになるだろうと予想される。が、中身は動画で観た通りのろくでなしだ。


王太子がやって来ても歓迎する気持ちにはとてもなれなかったが、溜息をついたり暗い顔をしたりすると、クレメンスは怒りだして私に暴力を振るう。


それを止めようとする護衛や侍女が罰を受けるので、私はできるだけ彼を怒らせないように機嫌を取ることに終始していた。


それでなくてもお腹が空いてイライラするのに、こんな自己中なガキのご機嫌を取らないといけない自分の境遇に泣けてくる。


王太子の護衛や侍女は私にとても同情してくれている、と思う。こっそりと食べ物を持ってきてくれたり、私の待遇改善を王太子に訴えてくれたりした。


しかし、それらは逆効果で彼らはすぐに解雇され、新しい護衛や侍女に代えられた。


クレメンスは嫉妬深いというか独占欲が強いのか、私が護衛と目が合って目礼しただけでも怒りだした。


「おい! 他の男に色目を使ってんじゃねぇ!」


手足をじたばたさせて怒鳴り散らし、その護衛を即刻解雇した。


だから、クレメンスの護衛は頻繁に代わり、私は奴を刺激しないよう護衛とは目を合わせないように注意した。


……なんでこんなガキのためにそんな努力をしなくちゃいけないんだ!


前世から数えるとアラフォー近くになった私はそう思ったけど、護衛の人たちにも生活がある。簡単に解雇されるなんて堪ったもんじゃないだろう。


ブラック会社で鍛えられたおかげで、私には理不尽を飲み込む忍耐力が備わっていた。


あの会社に感謝の気持ちが生まれるなんて想像もしなかったな、と思うと何だか可笑しくて噴き出してしまった。


「何か面白いことがあった?」


珍しく私が笑ったからか、嬉しそうにココが話しかけてきた。


ココとピパは忠実に私の側に居てくれる貴重な存在だ。私が一人きりの時は二人と色々なおしゃべりをした。


二人がいなかったら私はおかしくなっていたかもしれないな。話し相手になってくれて、精神的にとても助けられているから。


それに普通の人に精霊は見えないけれど、精霊は人を見ることができる。二人はしょっちゅう出かけていっては、外の様子を私に聞かせてくれた。


ココとピパによると、ユリウスたちは私を助けるために懸命に情報収集をしてくれているらしい。


忘れられていないということがこんなに心が温まることだなんて……。


泣きそうなくらい嬉しい。


エミリア母さんとラザルスも元気でやっているらしいが、たまに私のことが話題に出ると悲しそうな顔をしているという。


「……ルキウスは?」


試しに聞いてみると、狂ったように剣の稽古に明け暮れているそうだ。


いずれ団長を追い抜くのではないかというほどの評判らしい。


「すごいね。元々すごく強かったもんね」


ルキウスにも頑張って欲しいな、と考えているとお腹がぐぅぅぅっと鳴った。


恥ずかしくて笑って誤魔化すとココとピパは悲しそうな顔をする。


「僕たちが食べ物を持ってこられたらいいのに……。ごめんね」

「二人は何も悪くないよ。ココとピパが居てくれるから私は正気を保っていられるんだよ。本当にありがとう」

「そんなこと……もっとユリアのためにできることがあったらいいのに……」


ピパの言葉を聞いて、私は思わず二人を抱きしめた。


「心配かけてごめんね! 私は大丈夫だから!」


でも、二人は相変わらず辛そうな表情で私を見つめていた。


そして、三年の月日が流れ私は八歳になった。



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