洋季と明保2
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「冬子はバイト決まったの」
今日も菜津はかわいい。しかし菜津はかわいいと言われる事を嫌うのだ。
「うーん、なかなか決まらないんだよね。どうしたもんだか。ってあれ?あそこに見えるの、洋季と明保じゃない」
廊下を歩いていると窓の外に見えたのは、怒鳴り合いながら走っている洋季と明保だった。あれ、洋季は逃げているのかな。喧嘩かな。
「良くない喧嘩なんて。菜津、追いかけるよ」
私は菜津の手を取って私は走り出した。
「え、ちょっと待って何喧嘩って。喧嘩なの?すぐ自己完結して思い込む癖やめてよも
悪態を言いつつも一緒に走ってくれる菜津が私は大好きだ。
外に出て追いつくとマウントを取られている明保を発見した。取っている方はもちろん洋季だ。
「ちょっとちょっとちょっと、お二人さん、何してるの。喧嘩だめ。菜津、ほら言ったでしょ。喧嘩だって。」
「喧嘩なのは正しかったけど、ふふんって鼻膨らませてあんた」
菜津は額に手を置いてははっと笑った。
「なんで笑うのよう。で、どうしたんだいお二人さんよ」
「いや、なんでもねえよ。総合格闘技ごっこしてただけだ。な、洋季」
取っ組み合いしていた彼らはいつの間にかそれぞれ芝生に座り直していた。
「うんなんでもない」
明保が笑うと洋季も笑って言った。
「何それ、蚊帳の外嫌だよー。ねえ、菜津」
「良いんじゃないの。どれだけ仲良くしてたって、他の人にはわからない事ってあるよ。それでいいんじゃない。落ち着きな。てか最近よく走ってる気がする。疲れる」
菜津がそう言ったので、私は落ち着くことにした。
「わかった。でも殴り合いは良くない。見てる方もヒュッてするから。そして私もこの間走った記憶はある。あ、洋季こっちの頬腫れてるよ。冷やさなきゃ」
私は洋季の頬に右手で触れた。
「おいちょっと待て、こっちを見てみろ」
そう言った明保の顔を見てみると、明らかに洋季よりボッコボコだ。
「え、どういうこと。ごめん気づかなかった。なんで明保はそんなにボコボコなの」
「気づかなかったって」
そう言ってぶふぉって笑ったのは菜津だ。
「冬子お前いい加減にしろよ」
はい、明保すみません。
「その、なんだ。先に手出してきたのは明保なんだけど、俺スイッチ入っちゃって、気づいたらマウント取ってて、気づいたらすごい殴ってたというかなんていうか」
いつもより饒舌な洋季は言葉の最後に、ごめん、と小さく言った。
「覚えてねえとは言わせねえからな」
明保は悪態をついてるくせに笑ってた。
「俺だってこんな自分初めてなんだよ。混乱中だよ頭ん中」
「まあ良いけどさ。お前のスイッチ怖いわ。ほんっとこの男前に傷つけやがって…て、は?菜津寝てんだけど」
え、と洋季私の声が混ざる。
「マイペースだなあ。かわいいなあ。」
菜津の寝顔を流れるような動きでスマホ納めている自分、不覚だ。
「もういいか。二限目は諦める。もうとっくに始まっちゃってるし」
洋季が急に不良な事言いだした。そして芝生に寝転がった。
「冬子も菜津もさっきからなんなんだ。何しにきたんだ。まあ良いか」
明保も寝転がる。
「そういえば明保、昨日と服一緒じゃないか」
明保は、お前そういうとこだそ、と言った。
と言いつつ私も寝転がってみた。空は霞んでいるし芝生は痒かったけど、サボりというものを初めて経験した私はなんだかちょっと、みんなと同じ場所に立っている気がした。二人の間にどんな会話があったのかはわからないけど、笑って何でもないと言うのなら何でもないのだ。