プロローグ
処女作になります。よろしくお願いします。
気が付けば黒鉛の上がる荒野に立っていた。角や尻尾の生えた燃えカス、根元が僅かに残っただけの黒々とした木々の跡。そんな周囲一帯を埋め尽くす惨状を他人事のような、起伏の無い心境で見渡している。方々に炎が燻り焦土と化した草原は、まるでこの世の終わりをも連想させる光景。
自分の手を見ると血が付着していて、視界の端には綺麗に仕立てられた黒色のシックな服が赤黒く染まっている。しかし何かを感じることはない。そんな自分を少し怖いと感じてしまう。いや、怖いと言い聞かせる。それは自分が何者なのか、どうあるべきかを忘れないための行為だった。
突如として視界が深い闇に覆われる。光が戻ったのは、薄暗い陰鬱とした場所。荘厳な石造りの広々とした部屋で、中央に敷かれた深紅のカーペットは三段の石畳の上に在る空虚な空間に続き、王が坐するはずの席がただ在るだけ無為な場所。
僕が視線を向ける先、血みどろで薄い光を放っているそれは、玉座の前に力なく横たわっていた。それからは光の粒子がふわっと浮かび上がっては溶けるように消えていく。その現象は肉体の消滅を意味しているが、それに驚く事はない。
不意に後ろからか弱い視線を感じた。まるで別の生き物を見るようなその視線は、少しの驚愕と大きな恐怖からくるものである。いつものこと、知った感情。
そうだ、やる事は終わった。これ以上ここに居ても仕方がない。流れるようにそう思った僕は、振り返って歩みを進めようとしたその時――
「…にい…すか?」
白い靄に変わる景色の中、消えそうな切ない声で、誰かにそう呼ばれた気がした。